第四話 『     』

「だから京子、私は明日香だよ!私のこと忘れちゃったの!?」


「えっ、ええと……貴女が明日香さん、という事は分かりましたわ。でも、わたくし、貴女とは初対面なはずですわ。どなたかとお間違えでは?」


「な、何でよ……京子はそんな嘘言う子じゃないでしょ!?親友だって言ってくれたのに!」





ーー私は今、中二の教室があるフロアで親友の一人である京子と言い争っていた。理由は、京子が私のことを知らないというから。


京子は真面目な性格で、THE.優等生なお嬢様って感じの子。ちょっとオタク気味で、暴走しがちな所もあるけれど、嘘をつくのは下手なのだ。たった一年数ヶ月一緒に過ごしただけだけど、小学生時代の遅れを取り戻すかのように沢山遊んだ。だから、分かる。これは嘘じゃない。嘘じゃないんだ。だったらなんだっていうの?朝から京子や優香ちゃんたちのことが何かおかしい。


目の前で戸惑っている京子と、朝から変な事続きでイライラしている私、何事かとこちらを伺う先輩たち……うん、先輩?私は何言ってんの、皆は先輩じゃなくて同級生でしょ。私は中二で……いや私は中学一年生……うんうん、違う、私は中二!……本当に……?


私が突然の強烈な違和感に戸惑っていると、一人の女の子が近づいてきた。その顔が見知った顔だったのでほっとし、小走りに近づいて話しかける。


「優香、あのね、京子がなんかおかしいの。わたしのこ……」

「ひっ!?」


もう一人の親友・優香にいつも通り、話しかけた。そう、いつも話すみたいに。なのに、彼女親友は逃げた。初対面の時みたいに、京子の後ろに隠れ、その顔には、明らかな恐怖を張り付けて。


「優香さん、明日香さんに失礼ですわよ。…ごめんなさいね、この子は極度の人見知りで……」


京子が何か話しているが、何も聞こえない。何か、何かがおかしい。優香があんな態度をとるなんて一年前以来。優香が私に慣れるのにはとっても苦労したのだ。でも、親友になってからは抱き着いたり撫でたり、スキンシップもいっぱいしたのに。なのになんで……






本当に?






「えっ?だ、誰……?」






本当に親友なの?彼女たちは、本当に友人なの?






「き、決まってるでしょ!?京子と優香は大切な親友で……」


突然頭の中に響いてきた声に狼狽える。少女の声だ。同い年ぐらいの、女の子。何故か姿は見えない筈なのに、姿が鮮明に見える気がした。嗤ってこちらをみる姿が。







ねぇ、友人だっていうのなら、何であの子達は貴女のことを知らないの?貴女を見て怯えるの?……貴方は、本当にあの子達のことを知っているの?






「知ってるに決まってるでしょう!?」






うふふ、じゃあ、あの子達の名前を言ってみて?






「はぁ?二人の名前は……名前は……あれ…?嘘、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!だって、二人は親友で、親友は、私の親友は……」






貴女が今思い浮かべた名前を当ててみましょうか。ーー夏美と雪。そうでしょう?アハハ、素直になったらいいのに。……ねぇ、貴女が言う、お友達の顔を見てみてよ。二人は、お友達だと思っていないみたいだけど。





「えっ?……ぁ…」


二人の顔は、奇異なものを見る目で。その顔は、友達に向けるものじゃなかった。得体のしれないものをみるような、そんな顔ーー


「……ッ!」

「あっ、待って!」


堪らず走り出していた。堪えられなかった。こちらを見る目に。何より……私が彼女たちのことを、知らないと、思い始めていることにーーー。














さあ早く、私に『        』。

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