第2話 ようこそ、愛しい子

 みけ子さんの健康診断がおわり(無表情ですべての検査を受けてくれた、最強最高の存在過ぎて全世界に発表したい)全財産を銀行から引き出しみけ子さんの欲しいものとちょっと自分の欲しいものを買いこむ日々が始まった。


 昔よんだ小説だと家電製品とかソーラーパネルとか持ち込んだ方がいいとかあったなぁ、と記憶を掘り起こしながらみけ子さんに聞くと、エアコンも暖房器具も魔法でどうとでもなるらしいので不要とのこと。

 異世界人の私も魔法は使えるのかと聞いたら「魔石があれば動くから、魔力がなかったとしても安心しなさい」といわれたので、家電とかではなく換金できそうなもの、電力がなくても使える物を買っておいたが、お金になればいいなぁ。


 あとはまたたびだけだ。いつ取りに行こうかなと考えてみけ子さんに相談する。


「ちょうど明日が満月みたいだから、またたびをとってそのまま渡ってしまいましょう」


 というみけ子さん。嫌な予感がするわ、というので一か月早い世界渡りをするために私はホームセンターに走った。キウイフルーツの苗と土を買うために。猫が食べても問題ないが、アレルギーがあったらまずいのでみけ子さんにはあげたことはない。でもキウイフルーツもまたたび科だし、私が好物なので買うつもりだった。ついでに目についた果物やら木の苗を買い、車になんとかのせて家に帰ると窓際でみけ子さんが尻尾をふくらませていた。え、なんで?


「めい子、さっさとこのアパートから逃げるわよ。外から嫌な気配がしたの、大家さんが草むしりをしていたから部屋まではこなかったけれど、アレは不味いわ」

「う、うんわかった。みけ子さん車にのるからハーネスつけて猫用リュックに入ってね。荷物車に乗りきるかな」

「気合で何とかしてちょうだい。世界を渡ったら私がどうにかできるから」


 家電家具はそのまま置いていく。みけ子さんのキャットタワーは分解して車へ。パズルするかのように荷物を車に積んでいく。私の車は軽だが座席がフルフラットになる仕様。災害時にみけ子さんと避難生活をするとき便利だろうと悩みつつ買ったが、正解だったかな。運転席とその後ろの座席以外は荷物でいっぱいになった。みけ子さんを後部座席にのせてシートベルトをセット。

 大家さんに突然で申し訳ないが引っ越すと話すと「猫ちゃんのおやつとお菓子、さっき作ったばっかりの煮つけをもっておゆき。不審者はあしらっておくからね」と言われた。不審者ってみけ子さんが言ってた嫌な予感のことだろうか。まさか上司、なわけないか。


 大家さんに見送られて、私は車を走らせる。行き先は大家さんのお山。夕暮れ前なので正直こわい。野生動物とかでてこないでよと祈りながら鳥居を抜けて砂利道を運転すること二十分。開けた場所に到着した。大家さんに山菜取りに来るときはここに車を止めなさいと言われた場所だ。車のエンジンはつけたまま、熊避けに何度かクラクションを鳴らして外に出た。


「あ、みけ子さんまたたびあったよ」


 山の斜面に生える白い葉っぱ、今の時期だけ表が白くなるんだっけ。わかりやすくて助かるけど、どうやって取ろうかな。


「白いとおもったけど、裏は緑ね。あんまり近づくとおかしくなるから、はやくして。できれば根、無理なら実か蔓だけでもいいわ」

「はいはい」


 車の中でみけ子さんを自由にし、水とおやつを置いてから私は採取をはじめる。といっても適当にスコップで掘り出してビニール袋の中にいれるしか私には出来ないんですがね。

 採取が終わったらお腹がへったので大家さんにもらった煮つけ(筍と厚揚げだった)と適当に握ってもってきたおにぎりを食べていると辺りが暗くなってきた。梅雨時期にしては珍しい晴れ。夜空には星が散らばるが、今日は満月。月の光に負けて見えにくい。


「満ちたわね。めい子、車のエンジンを切って。私を抱っこして」


 いわれるがまま、車のエンジンを切りみけ子さんを抱っこする。ついでに頭を吸うと後にしろと怒られた。



「行くわよ、≪蜑オ騾�逾槭h縲∝�縺ョ逾槭h縲�裸縺ョ逾槭h縲∫↓縺ョ逾槭h縲∵ーエ縺ョ逾槭h縲�「ィ縺ョ逾槭h縲∝、ァ蝨ー縺ョ逾槭h縲∝、ァ遨コ縺ョ逾槭h縲∝、ァ豬キ蜴溘�逾槭h縲∵凾縺ョ逾槭h縲∵�縺碁。倥>繧定◇縺�※縺サ縺励>縲∫ァ√◆縺。繧堤嚀讒倥�荳也阜縺ク縺ィ騾」繧後※陦後▲縺ヲ縺サ縺励>縲∫ァ√�蜷榊燕縺ッ繝溘こ繝シ繝阪�繧「繧、繧キ繝」繝サ繝輔か繝ウ繝サ繧キ繝」繝シ繝医Φ縲√す繝」繝シ繝医Φ蝗ス縺ョ豌代□縲�!≫」

 


 謎の言語というより脳が認識出来ないものを無理に認識しようとしている音。

 謎の気持ち悪さと浮遊感に胃から込み上げてくるナニか。

 視界は暗闇から白に染まり、つま先から冷たいものが這い上がってきた。

 


 こわい、これはだめだ、恐ろしい思いをするのは私だけでいい。

 腕の中にいる愛猫を眩しくないよう、苦しくないよう、こわくないよう抱きしめる。

 


「めい子、着いたわよ」


 優しい声が聞こえ、腕の中で動く。そっと目を開くと、世界は青い空が覆っていた。

 新緑から深い緑に変わりつつ草木、間に咲く沢山の白い花が視界を奪う。

 にゃーと鳴いたみけ子さんは私の腕の間から抜け出すと、非力で不器用だったはずの手で車のドアを開けた。



「ようこそ、私の故郷シャートン国へ。歓迎するわ、私の愛しい子」

 


 風が車の中に吹き込んでくる。

 草と花の匂いがした。

 土の匂いがした。

 知っている匂いと、知らない匂い、嫌いじゃないこの香りは何だろうか。

 私は大きく息を吸い込んだ。

 この香りは私の記憶にずっと残るだろう。


 ここが異世界、みけ子さんが生まれた世界。

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愛猫に連れていかれた先は、 藤白春 @fuzishiroharu

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