毒花/下鴨納涼古本祭り
先日、下鴨納涼古本祭りが開催された。
糺の森でバスを降り、祭りと書かれた旗を辿ってふらふら歩くと、木々の生い茂る公園のような場所に辿り着いた。すれ違う人々が手に提げるビニール袋は皆一様に長方形に整っていた。
私は神社で二人の友人と待ち合わせをして、その祭りに参加した。
朝食を取っていなかったので、出店の焼き鳥とノンアルコールのビールを流し込む。ついでにおまけの団扇も頂いて、いざ鎌倉と意気込んだ。
──本を買ったのは私だけであったが。
私が好んだのは民俗学の本だった。
初めに訪れた古本屋はどうやら古本というには少々ぼったくりだったらしく、一冊八百円ほどする物を買ってしまったが、元値よりもずっとマシであると自らを納得させる。
鞄も大きい物ではなかったので、買ったのはたった四冊であった。しかし友人を散々待たせて選び取った宝物のような四冊である。
タイトルはそれぞれ『植物の由来』『花と民族』『狩りの語部 伊那の山峡より』『葬儀の民俗学 古代人の霊魂信仰』となる。私が別の作品で、何時か取り扱いたいテーマの本を搔き集めた。
して、古本とは人の手を渡るものである。
古本屋を夢見て少し調べたことがあるが、古本には元の持ち主の痕跡が多数残されている。切手が挟んであったり、写真があったり、場合によっては住所の載った葉書なんぞも挟まっていることがあるらしい。そこから高価な物を発見すると、多少心も踊るとか。これらを総称して『痕跡本』と呼ぶこともあると言う。
しかし最も多い痕跡は落書きだろう。
図書館で借りた調べものの本に、鉛筆で線が引いてある。酷い物だと消えないインクで書き込まれていたりして、気づいた時少しむっとする。よくあることだと思う。
はて、話は逸れているようで順路に通っている。
私の買った本にも痕跡本が紛れ込んでいたのだ。
『花と民族』には、執拗に赤ペンでぐりぐりと、幾つもの丸が付けられていた。一番初めの朝顔のページの解説の素晴らしさだけを見て決めるべきではなかったなあ、などと後悔しても後の祭り。私はこれを金銭と交換に手に入れたのだ。
多少下がった読書のモチベーションだったが、しかし、たかがこれしきで折れるわけでもあるまい。幸い塗りつぶされてなんかはいなかったので読み進めると、数十ページで一つの法則に気づく。
毒のある花や、死に纏わる花にばかり印がある。
証拠隠滅の為に売ったのだろうか、などと思った。もしくは遺品整理で売られたのかもしれない。
私は読み終えてから、厳重に手を洗った。
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