中落ち/船岡山付近京都府立医科大学看護婦宿舎築山寮

 船岡山は個人的にも思い入れ深い場所である。

 なにせ、だいたい麓に住んでいるからである。私の通う大学からは少し遠いが、家賃には勝てない。地獄の沙汰も金次第である。

 しかし地の獄と呼ぶには、この辺り一帯は随分のどかな場所だった。

 家々立ち並びスーパーは思い付くだけでも五つほど。北大路バスターミナルが近いので、バス停も細かく配置されている。京都のバスは何処まで行っても二百三十円(2024年8月20日現在)であり、また路線も網目のように張り巡らされているので、京都を観光したいならば必然交通手段は市営バスとなるだろう。

 さて京都駅に降り立って、正面のバス乗り場から目的地を目指す。205系統辺りが丸いだろうか。そうしてずんずんバスに揺られていると京都駅から最も離れた辺りで『船岡山』というバス停に着くだろう。確か目の前はパチンコだっただろうか。

 人は言う。

 曰く船岡山は京都最恐の心霊スポットである。

 個人的な見解を述べる。

 そんなわけない。

 確かに古墳のような場所が在ったり、民俗学の教授曰く火葬場も在るらしい。かつて警察官が行方不明になったという話もある。友人の父親がもう数十年ほど前にこの辺りで過ごしていた頃には、反社会的組織が幅を利かせていたらしいが、今ではとんと音沙汰無い。

 この地に住んで早4年、家の中で霊的現象など起きていないし、何か怪しげな噂話も聞かない。(確か一年前の冬に、京都に於いて連続で不可解な事件が起きたが、(不審火、死体の発見、殺人など)三件目の女子大生が殺された云々の話はこの辺りだったような気がしないでもない。詳細は不明)

 東から船岡山に入ろうとすれば、必然巨大な鳥居が目に入る。夕方頃に訪れれば、傾いた茜に照らし出されて大層美しく見えるだろう。人懐っこいトラ猫も偶にいる。居酒屋から帰る道中鳥居の足元で光る二つの眼を発見した時には死を覚悟した。

 鳥居をくぐって、前方か、もしくは左方の砂利道の先の階段。どちらかを昇って道なりに進めば建勲神社が在る。桜舞う春頃に運よく観光客がいなければ、それはもう素晴らしい光景に心躍らされることだろう。

 東の鳥居で二礼二拍、そうして道の左に寄ってから前方に五、六歩進む。

 すると突き出た桜の枝と社が完璧な具合で重なり、写真を撮ることすら忘れて呆けてしまう。建勲神社には織田信長の伝承が伝わっており、『人生五十年』のうたの掘られた石碑を見つける事も出来るだろう。

 山中の広場は散歩する人々、公園では子供たちが賑やかに遊びまわる──穏やかな、場所なのだ。

 だから私としては船岡山よりも、近隣に存在する謎の廃墟の方がよっぽど恐ろしい。

『京都府立医科大学看護婦宿舎築山寮』は、バス停大徳寺を降りて一分ほど南下した辺りにある巨大な建造物である。かつては使用されていたのだろうが、人が出入りしている所は見たことがないし、その門が開いているところも見たことがない。囲う柵の天辺はこちらに向かって牙を剥いており、そう簡単には侵入できないだろう。

 けれどもあの場所は夜になると必ず、一回の受付らしき場所に仄暗く灯りが点いているのである。

 電気だけは通してあるのだろうか? それとも懐中電灯などの電化製品の灯りなのだろうか? 門扉は固く閉ざされているというのに、誰が何時入り、あの場所で過ごしているのだろうか?

 あれは一体なに故であるのか、もしお分かりになる方がいらっしゃればご教授願いたい。

 

 なお『家の中で霊的現象など起きていない』と記述した通り、船岡山の山中では何事か怪奇現象に近しいものに襲われたことが在る。

 次話で記述する。





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