第4話 六月の彼女は演説をした。
六月。僕らが通う高校では毎年この月に文化祭が行われる。
そして昔からの伝統なのか何なのか、一、二年生は模擬店や展示、三年生は演劇と決められていた。
『演劇かー……』と普通のぼっちなら憂鬱になるかもしれない。
だが、僕のように特殊な訓練を受けたエリートぼっちには、その様な心配は無用だった。
なぜなら一人で黙々と作業する係に就いてしまえば良いのだから!
「えー。じゃあうちのクラスの演劇はロミオとジュリエットという事でいいですかー?」
「「「「異議なーし」」」」
そんな事を考えていると委員長の司会により、いつの間にかクラスの劇の演目がロミオとジュリエットに決まっていた。
……まぁいいか。
演劇には小道具が沢山必要だし、それを作る係になればいいだけの事だし。
「それじゃあ次に、主役のロミオとジュリエットの役なんですけどー、誰かやりたい人いますかー? 他薦でもいいですよー」
「ジュリエットはやっぱり難波さんじゃない……?」
「えー! 鳴海ちゃんのジュリエット、超見たいかもー!」
「絶対可愛いよねー!」
「はーい! ジュリエット役は難波さんがいいと思いまーす!」
委員長の言葉に次々と反応を示すクラスメイト達。
ジュリエット役の立候補は無かったが、他薦では難波さんが圧倒的な人気を誇っていた。
「えー? ウチがジュリエットー? ウチにそんなんやれるかなー?」
「大丈夫大丈夫! 難波さんなら出来るよ!」
「そうそう! 鳴海ちゃん可愛いし、絶対似合うよ!」
「そー? そこまで言われたら引き受けなしゃあないなぁー!」
「じゃあ、ジュリエット役は難波さんで決定って事でいいですかー?」
「「「「「異議なーし!」」」」」
こうしてジュリエット役はすんなりと難波さんに決定した。
「じゃあ次はロミオ役なんだけ――」
「はーい! ウチがジュリエットやるんやったら、ロミオ役はあっきーにやって欲しいでーす!」
委員長がそう言いかけた時、難波さんが食い気味で僕の名前を出した。
しかも大声で……。
するとさっきまであれ程までに騒がしかった教室が一気に静まり返った。
「え、あっきーって誰?」
「いや知らない。うちのクラスにそんなのいた?」
「名前にあきってつくのって、もしかして霧山……?」
「いやいや、流石にそれはないっしょ! どう考えても釣り合わないし!」
そして次第にヒソヒソと話すクラスメイト達の声が聞こえ始めた。
ちょっとそこ?
聞こえてるんですけど?
僕の悪口を言う女子達に僕は心の中で不快感を示す。
あくまで心の中で……だ。
「ちょっとそこ! 聞こえてんねんけど?」
すると僕の心の声を聞いたかのように、難波さんは僕が思った事と同じ事を言った。
「え、だって霧山ってその……暗いじゃん? それに別にかっこいいわけでもないしさ。ジュリエット役が難波さんなんだったら絶対釣り合わないって」
すると一人の女子が声を上げた。
僕のHPは0になった。
そんな時、難波さんはいつものにこやかな表情から、僕が見た事もない真剣な表情へと変わった。
「かっこよくない……? はぁ。あのさぁ。そういう見た目とか性格で人を判断すんの、やめた方がえぇで?」
うぉー、こういう所でズバッと言えちゃう難波さんかっこいいー。
さすが天下無敵のギャルだな……。
「え、でも……」
「いや、でもやなくて――」
しかし、そんな無敵のギャルに反論しようとする愚かな女子がいた。
そんな女子に対し、彼女は突然昔話を始めた。
「……ウチさ、今はこんな見た目やけど。昔大阪からこっちに転校してきた頃は『変な話し方ー!』とか言うて、バカにされていじめられてたんよ。でもな? そん時に私をいじめっ子から助けてくれた人がおったんよ。その人からしたら単なる気まぐれかもしれん。もう今となっては忘れてもうとるかもしれん。けど、ウチにとってその人は世界中の誰よりもカッコよく見えてん」
難波さん……。昔そんなことが……。
あんな明るくて、僕みたいな根暗な奴にも話しかけてくれる気さくでいい人がいじめられるなんて、どんな世界線だよ……!
って……ん?
そう言えば小学生の時、僕もいじめられている女の子を助けた事があったっけ。
あの時は確かヒーローもののアニメにハマってた時期だったからそれの影響だと今となっては思うけど。
あぁ、思い出したら恥ずかしくなってきた……。
「な、難波さん? それはどういうお話? 今、それ関係ないんじゃ……」
すると他の女子からも、突然の彼女の昔話にツッコミが入った。
しかし彼女の話は止まらなかった。
「関係ない事ないで。もしアンタらがいじめられてて、その場から助けてくれた人が、あっきーみたいに暗くて冴えへん子やったらどうする? おんなじ様にバカにするん? せーへんやろ? だからな? 見た目とか性格がどんな人やったとしても、誰かの助けになっとったり、優しい一面があるかもしれへんやん? せやからそうやって見えてる部分だけで人を判断するのはやめた方がえぇよって言うてんねん」
彼女が話を終えると、教室内は静まり返り誰も彼女にに反論する人は居なくなった。
するとさっきまで僕の事を悪く言っていた女子の一人が立ち上がり僕の方を向いた。
「え……な、何?」
「難波さんの言う通りだと思う。ごめん、霧山……。さっきは酷い事言って……」
「え、え。別に大丈夫だよ。気にしてないから……」
「ありがとう。難波さんもごめん。気を悪くさせちゃって……」
「わかってくれたんならえぇよ。これがウチらの高校生活で最後の文化祭やし、みんなで仲良く、楽しくやろうや! な!」
「「「「「おーー!!!」」」」」
おぉ、すごい、すごいよ難波さん。
完全にこの場の空気を持って行っちゃったよ……。
クラスの女子が僕に謝って来た時は驚いちゃったけど、流石はクラス一の美貌と人気を誇るカースト最上位のギャル。
僕みたいなカースト最底辺の奴とじゃ格が違うよ……!
「じゃあジュリエット役は難波さん、ロミオ役は霧山くんって事でいいかなー?」
「「「異議な――――」」」
「異議あーり!」
委員長がそう言い、クラスの全員が異議なしと言いかけたその時。
彼女はそれに異議を唱えた。
「え!? 難波さん、どうして!? 今完全に霧山くんをロミオとして認めて、ジュリエット役は難波さんで決まる流れだったのに……!?」
「いやー、よくよく考えたら関西弁のジュリエットっておかしいかなーって思てさ? 絶対標準語の方がえぇやろ」
彼女は委員長の言葉にそうあっけらかんと答えた。
「いや、そんな事ないって! 難波さんならきっと――」
「いやいや、おかしいって絶対! 考えてみ? ジュリエットの有名なセリフあるやろ? あれが『あぁロミオ……。アンタは何でロミオなん?』ってなるねんで? な? おかしいやろ?」
「ぐっ……。確かに」
委員長が必死に説得を試みるも、彼女は実演を交えて反論した。
そして委員長は完全に敗北した。
「じゃ、じゃあ、もう一度初めから配役を決めたいと思いまーす」
こうして配役決めは振り出しに戻り、話し合いが再開された。
心做しか委員長のテンションが下がったように見えたのは気のせいだろうか。
◇
その後、数時間に及ぶ話し合いの末、僕の役割は当初の予定通り小道具作りに決まった。
しかし何故か難波さんも僕と同じ小道具作りの係に就いていた。
「一緒に小道具作り頑張ろな! あっきー!」
「う、うん……。頑張ろうね、難波さん」
高校最後の文化祭。
果たして無事に終わるのだろうか……。
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