第42話 岩屋の中の祠
漫画を描こう 42
気が付くと、岩屋の前で倒れていた。
目の上で一匹のイエローヘッドが旋回しているのが見える。
たとえ一匹でもスズメバチだ。
慎重に起き上がると、スズメバチは岩屋の中へ入って行く。
蜂が入っていった岩屋の中を除いて見ると、岩屋を組み立てた時にできたのであろう、石と石の間にできた隙間から入ってくる光が交差している。
「そうだ、雨は上がったのか」
隙間から覗く光と光に映し出されて、朽ち果てた木片が見える。
「これは?」
よく見ると屋根であったものや、柱であったのであろう小さな材木に気がつく。
「祠?」
背後で気配がする。
思わず振り返ると、白い鹿が立っている。
「先の鹿か? お前がここへ導いてくれたのか?」
その時、祠の中から声がする。
「来たか」
「誰だ」
「私はお前、お前は私だ」
「何が起こったって言うんだ」
「神の眷族、白の鹿に導かれた者よ。魂の抜け殻よ、何をしに来た」
「願いを叶えに来た」
「願いとは」
「ある者を甦らせてほしい」
「私は、そのある者を知っている。その者は再生できない」
「ここに来れば叶わない願いなどないと聞いた」
「その通りだ。然し魂の抜け殻となりし者よ。抜け殻に願いをすることはできない。ここは魂のある者だけの願いを叶える場所だ」
「私は選ばれし者だ」
「お前が決めただけだ」
「どうしても願いを聞き入れないと言うのか」
「そうだ」
「だからと言って私はここから去る訳にはいかない」
「残っていても何も起こらない」
「ならば、魂を取り戻すには、どうすれば良い」
「方法は一つだけだ」
「教えてくれ」
「岩屋の中に入れ」
「それだけか」
「それだけだ」
おさむは、もう一度岩屋の中を覗いて見る。
すると、さっきまでは気づかなかったが、何かが動いているのがわかる。
岩屋の中を忙しく飛ぶもの、そして岩屋の中の地面がゆっくりと動いている。
さらに暗い岩屋の奥から、またしても声がする。
「空にはスズメバチが飛び、地には毒蛇が絨毯のように這っている。お前は、それらを越えて祠の前まで来て手を合わせ、祈ることができるか」
おさむは躊躇う。
が、目を瞑って一歩を岩屋の中に踏み入れる。
柔らかいものを踏んだ感触がすると同時に、ふくらはぎに痛みを感じる。
あまりの痛みに片膝をつくと、その体を目掛けて周りの毒蛇が噛み付いてくる。
仰向けに倒れ、既に痛みも感じなくなっているところへ、スズメバチが群がってくる。
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