第41話 死へのダイビング

漫画を描こう 41


 山へと続く道、聖地へと向かう道、願いを叶えるための道。

行く手を阻むものは何も無い。


「奴ら作戦会議中か?」


 おさむが握るハンドルに力が篭る。


「それとも次の独裁者をジャンケンでもして決めているところか?」


 俺の心は結構お喋りだな、と思う。


 雲行きが怪しくなる、風が強くなって来たようだ。


「そうだな、俺を阻むものは何も兵隊さんだけに限定しなくても良いみたいだね」


 雨が降り始める。


「そうこなくっちゃね。全ての願いの代価は要らないなんて安すぎるさ」


 その時、一頭の鹿が車の前を横切る。

思わず急ブレーキをかけ、ハンドルを切ったリボーンが降り出した雨に横滑りする。


「前にも、こんなことがあったな」


 おさむは、二葉が装甲車を崖に滑り落とした時のことを思い出す。


「俺は、この世界じゃ何んでも操縦できる。でも、お前ほど上手く車を運転できそうにもないね」


 おさむは誰も乗っていないサイドシートに向かって話しかける。


 リボーンは、雲で頂上が見えない山に向かって登り道を走り始める。


「お次は、どなた様がお迎えに来てくれる?」


 そこへ、フロントガラスに硬いものがぶつかった音がする。


「何んだ?」


 さらに硬いものが数を増して当たってくる。

おさむは、目を凝らして前方を見ると、


「こいつはスズメバチじゃないか? 間違いない、イエローヘッドだ」


 スズメバチの中でももっとも獰猛とされている大きな黄色い頭を持ったスズメバチが数を増してフロントガラス目掛けて体当たりをしてくる。


「まさか、この程度でフロントガラスが割れるとは思えないが」


 おさむはワイパーを最大限の速さで回す。


「駄目だ、この数じゃガラスをワイパーで掃除しても追いつかない」


 おさむはスピードを落とすが、飛んでくるスズメバチには効果がない。


「くそ、前が見えない」


 その途端に、車が中を浮いた感覚に襲われる。


「しまった、崖から落ちたか」


 元々縁石しかない道、ガードレールにぶつからずにそのまま深い渓谷に落ちて行く。


「二葉、済まない、そっちの世界で会おう」


 銀色のスポーツカーから、無数の蜂が飛翔する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る