第40話 死か、神の山

漫画を描こう 40


 戦闘機に向かって行くおさむにドスト・F・スキー本隊責任者が声を掛ける。


「おさむ、どこへ行く気だ」


「特攻だよ。もう二葉は居ないんだ」


「そんな命令はしていない」


「なぁ、本隊長さんよ。トーマス・ウーマンのリーダーはな、誰の命令も聞かないんだ」


「その前に、さっき何んて言った」


「さぁね」


「帝塚山、と言わなかったか」


「ああ、言ったような気がするね」


「それは、神の山、サンクチュアリーの名だ。そして、この世界の支配者が住んでいたと言われている山だ」


「それがどうした」


「そこへ行けば、どんな願いでも叶うと言われている」


「冗談にしては笑えないね」


「これは伝説でもなく、迷信でもない、真実だ」


「じゃぁ、どうして誰も行かない?」


「行かない、ではなく、行けないんだ」


「本隊長さん、行けない聖地へ俺が行くのか? やっと笑えたよ」


「選ばれし者、君の名前が本当に帝塚山なら、行ってみる価値はある」


「とんだ無駄足だとしたら?」


「死地へ、特攻で死に行くくらいなら、試してみる価値はある」


 おさむは立ち止まり、デスパイアが居た司令室のある棟の横、今も静かに停車しているジャイガー・Eタイプ・リボーンを見つめる、


「二葉、そこで待っていてくれたのか?」


 おさむが口込もるように言うと、


「装甲車を貸すが?」


 と、ドストが声を掛ける。


「いや、リボーンで行く」


「分かった、君が選ばれし者であるなら、装甲車は必要ないのかもしれない。リボーンにガソリンを満タンにするよう部下に伝えよう」


 再びリボーンにエンジンが掛かる。


「なぁ、今度は俺の運転だ。お前は横に座ってくれてないけど、安心しろ。願いが叶ったら、帰りは乗せてやるから」


 おさむは、誰も居ないサイドシートに声を掛ける。


「あの山並みの向こう、頂上が雲に隠れている山が帝塚山だ。もしも君が選ばれし者でなければ、今までそこへ行こうとした者たちと同じように、多くの災いが君の行手を阻むだろう」


 ドストが出て行こうとするおさむに声を掛ける。


「聞いていなかったが、その時は、どうすれば良い?」


「戻ってくれば良い。君が乗ろうとしていた戦闘機を1機、差し上げよう。必要なら、君が敵地に着くまでの航路を他のパイロットに護衛させる」


「あんたには、お世話になるよ」


「今も昔もだ」


「昔のことは覚えちゃいない、ありがとう、行ってくる」


「必ず願いを叶えて戻ってくるんだ」


「ああ、そうするよ」


 銀色のマシーンが、血の色が滲むコンクリートの上を滑りながら走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る