第39話 帝塚山

漫画を描こう 39


 おさむが血まみれになった二葉を抱き上げる。


「おさむ、戻って来てくれたのね。会いたかった」


「もう大丈夫だ。救急処置室に行こう」


「もう、良いの。会えて良かったよ。あの時のように、急に居なくなっちゃうかと思った」


「二葉、今直ぐに連れ行ってやる。俺たちは、あの特殊な薬で再生できる」


「駄目よ、体の中が焼けるように熱いの。多分、内臓や消化器が破れて自己融解が始まっているみたいなの」


「安心しろ、今すぐ車を用意する」


「ありがとう。コマンドネーム・おさむ」


「誰か車を」


 叫ぶおさむを囲んでいる兵士たちには動く気配が無い。

兵士たちは二葉の体が再生できないことを、疑いもなく穴だらけの体を、見守っているだけである。


「おさむ、ありがとう。最後に・・・」


「最後なんて言うな」


 二葉は片手を動かして。おさむの頬に掌を合わせようとする。


「お願い、聞いて、コマンドネームじゃなくて、本当の名前を、教えて欲しいの」


 そう言うと、二葉の掌は、おさむの頬に届かず、だらりと落ちる。


「二葉、しっかりしろ、大丈夫だ、意識を失っただけだろ? なぁ、二葉、行こう、救急処置棟へ、誰か、車を、早く、車を持って来い」


 おさむは二葉の胸に顔を埋める。


「頼むよ、誰か、早く、車を、二葉を連れて行かなくっちゃいけないんだ。頼むよ、早く・・・」


 泣き崩れているおさむにドスト・F・スキーが手を差し伸べ肩に触れる。


「ドスト、車が欲しいんだ、装甲車でもなんでも良いんだ、なぁ、ドスト、お願いだ」


「おさむ」


「なぁ、ドスト、二葉は死んじゃいないんだ。気を失っただけなんだ。早く、車を、命令してくれよ」


「おさむ、顔を上げるんだ。しっかりと前を見るんだ」


 おさむは二葉の流した血を顔いっぱいにつけ、両目から流れる涙がまるで小川のように二筋の線を描いている。


「おさむ、正気に戻れ、デスパイアは燃えて灰になったが、奴の取り巻きは生きているんだ。陸軍基地にも空軍基地にも海軍基地にも。戦いは、まだ終わっていないんだ」


 おさむは、二葉の体をコンクリートの上に静かに下ろすと、来ていた革のジャンバーを二葉の上に被せ、ゆらゆらと立ち上がる。

そして、二葉に背を向けて戦闘機に向かって歩き始め、まるで生きている二葉に話しかけるように、


「俺の本当の名前は、帝塚山 だ」

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