第38話 炎

漫画を描こう 38


 軍用トラックの中に作られた作戦司令部でアイスコーヒーを飲みながら言う、


「で、リーダー・おさむ、作戦はあるのかい?」


 本隊責任者のドスト・F・スキーが声を掛ける。


「作戦は無い、先ほど言った通りヴィス・キャプテンの命が最優先だ。ただ、そのまま連れ去られれば二葉がどういう仕打ちを受けるか分からない」


「問題はそこだ。デスパイアを取り逃したとしてもだ、樋口二葉ヴィス・キャプテンだけは奪還しなくてはならない。然し、策がなければどうしようもないが」


「全ては、奴らが輸送機に乗り込む瞬間で決まる」


「どうする? リーダー?」


「静かに歩み寄り、静かに連れ去る、それができれば良いんだが」


「難しいな」


 作戦もなく、時間だけが去って行く中、戦闘機に囲まれた輸送機が基地の小さな滑走路に着陸する。

そこへ、二葉を抱えた親衛隊員とデスパイアが現れる。

機関銃を携え、周りの動きを窺いながら、小さな集団が輸送機へと近づいていく。


 そこへ、ドスト・F・スキーが拡声器で声を掛ける。


「約束は果たした。樋口二葉を返してもらおう」


 すると一人の親衛隊員が両者の中程まで歩み出て、


「まだ果たされていない、我々がこの基地を脱出できるまでだ」


 それに答えて、ドスト本隊責任者が拡声器の音量を上げて言う。


「樋口二葉をそのまま輸送機に運び込まれては、約束を違えたことになる」


 そう答えているドスト責任者に、おさむが近づき、


「音量を最大限にして」


 と小声で言う。

ドストは拡声器を口元から離して


「これ以上音量を上げたらハウリングを起こして何を言っているのか相手に伝わらない」


「それで良いんだ」


「分かったよ」


「何を相談しているのか分からないが、我々は無事離陸できるまで二葉を返さない」


「それは約束に無かったことだ、さらに言えば・・・・・・・・」


 ドストの説得が続いている中、音もなく近づいてくるものがいる。

音を消すことが目的のそれは、ハウリング混じりのドストの拡声器のおかげで誰にも気づかれないでいる。

しかも、猛スピードで近づいてくる。

静かに、そして静かに。


 その時、ドン・デスパイアが中央に立っている親衛隊員に叫ぶように伝える、


「罠だ」


 そう言った時にはすでに遅く、音もなく、猛スピードで向かってくるデイトナが二葉を奪い、マシーンのガソリンタンクに乗せると、ドストとおさむに向かって走ってくる。


 その後ろからマシンガンの銃口が火を吹く。


「伏せろ、あの単車を援護するんだ」


 ドストが叫び、チーム・トーマス・ウーマンの兵士が応戦する。


 金属製の盾を持っていながらも、倍以上いる兵士たちの銃撃に堪らず、デスパイアの親衛隊員たちが後退りしながら輸送機に乗り込んで行く。

その時には、いくつかの銃弾がデイトナと二葉に命中している。


「早く、早く乗れ、離陸するぞ」


 誰かは分からないが親衛隊員の一人が声を荒げる。


 チーム・トーマス・ウーマンの全ての航空機からパイロットは降ろされており、彼らは戦闘機の傍らで、戦闘服は着ているもののエンジンの始動どころではない。

空へ昇られれば、追いかけることもできず、彼らは別の基地に移動できるであろう。


 その時、


「させるか」


 傷だらけのデイトナが、血を流した二葉をおさむに預けると、Uターンして輸送機に向かって走り出す。


「へへ、侍じゃあるまいし敵討ちってか。龍さん、ドウカティ、みんな、今直ぐに、そっちへ行くからな」


 猛スピードで再び走り出したデイトナが輸送機目掛けて走り出す。


「撃つな、撃つんじゃない」


 おさむが味方に対して叫ぶ中、疾風の如くデイトナが走る。


 デイトナがウイリーをして前輪が高く持ち上げられた時、味方からの銃弾がライダーの背中に命中する。

一瞬、車体が揺れたように見えたが、それでも体勢を立て直し単車は走り続ける。

さらに敵の銃弾がライダーの身体を蜂の巣にする。


「馬鹿者が、撃つな」


 そう言ったのは、今度はドン・デスパイアであったが、時すでに遅く、エンジンタンクに火花が引火し、デイトナというマシーンと同じ名前で呼ばれていたライダーが一瞬にして炎に包まれる。


「くそ、不良のクソガキが」

 

 デスパイア、輸送機と共に炎に包まれる前の最後の一言であった。


 過剰に燃えた車体がライダーを灰にし、更に激しい炎が輸送機に引火する。


「全員退避」


 ドストの声が響く。


「伏せろ」


 おさむが叫ぶ。

それと同時に輸送機が爆破する。

両脇に控えていた戦闘機にも引火すると、大量の銃弾とミサイルにも引火し、大爆発が起こる。

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