第31話 墓場にて
漫画を描こう 31
黒煙をあげている場所は、まるで二輪と四輪の墓場のように、車体があちこちに散らばっており、車は横転している。
中にはガード・レールにぶつかったままのものや、それを乗り越えて海に浮かんでいる車や単車が見える。
そのままゆっくり走ると、先頭の方でガソリンを撒き散らしたままの車が見える。
幸いにも火の気が無い。
その車、シボレー・カマロである。
おさむは装甲車から降りて、カマロに近寄ると、血まみれで防音族の総長悪多川龍之介が横倒しのカマロにもたれかかっている。
「くそ、遅かったか」
「兄貴、遅かった、じゃなくって、遅すぎだぜ」
「大丈夫か?」
「俺かい? 平気さ。それより俺の仲間達は?」
「誰もいない。山間部へ逃げたと思う」
おさむは周りを見ながら言うが、死体がいくつも転がっている。
「そうかい、そりゃ良かった。みんな無事に帰ってくれると良いんだがな」
「大丈夫だ、みんな逃げ果せるさ」
「兄貴、煙草を持っているかい?」
「馬鹿野郎、ガソリンまみれじゃないか」
「へへへ、知ってんだ。本当はそこらじゅうに死体が転がってんだろ? 相変わらず兄貴は嘘が下手だな」
「・・・・・・・・」
「なぁ、最後に一本、吸わせてくれよ」
「駄目だ、引火してお前の身体が燃えて灰になっちまうじゃないか」
「それで良いんだよ。俺は総長だからね。みんなを死なせた責任を取らなきゃ、責任を果たさなきゃならない」
「何を言っているんだ。死んで責任を取ろうと思うな。生きて生き抜いて責任を取るんだ」
「でもよ・・・、ぐへ」
龍之介は血を吐いて一瞬言葉を失う。
「最後に大切なことがあるんだ。これを伝えようと思ってな。ここで兄貴を待ってたんだ」
「それは?」
「兄貴が追いかけてた奴さ。俺が奴らの車に体当たりを仕掛けようとした時、車内が見えたんだ」
龍之介は、また咳き込み血を吐いた。
「何が見えたんだ?」
「兄貴、俺は、もう、長くねぇ。多分、一回しか、伝えられねぇ。良く、聞いて、おいてくれ。あの車には、運転手と、武器を持った兵士しか、乗って、いなかった。兄貴の、追いかけていた奴は、あの車に、乗っちゃいねぇ」
立ち寄る暇もない速度で走り続けていたからには、逃亡中に飛び降りたとも考えられない。
「なぁ、兄貴、責任を、取らせてくれ。多分、内臓も、破裂してる。今まで、兄貴を、待っていた甲斐が、あったっよ。これさえ、伝えられたら、もう、良いんだ」
そう言うと龍之介が目を閉じた。
涙も流さずに、おさむはポケットの中の皺だらけの煙草を龍之介の口に咥えさせた。
龍之介が微かに笑う。
そして、おさむは龍之介にオイルライターを持たせる。
「まだ力が残っているなら、自分で火をつけろ」
背を向けて立ち去ったおさむの後ろで、炎が昇った。
「今度は、煙草じゃなく、線香に火をつけてやるよ。抱えきれないくらいの花束と一緒にな」
歩いているおさむの膝が突然崩れた。
涙が止めどなく流れ出した。
大きな声を出して叫ぶように泣いた。
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