第24話 悪多川龍之介総長

漫画を描こう 24


 窓から脱出したデスパイア達をおさむが追いかける。

後ろでは気が狂ったように泣き叫ぶ二葉の声が聞こえる。


「サギャン、サギャン、穴だらけじゃない、こんなにボロボロになって、これじゃ元の姿に戻れないよ」


 サギャンは穴だらけの顔で目を瞑っているように見える。


 おさむはデスパイアたちと同じように窓に備え付けの脱出口を滑り降り、着地した場所で小銃を構え連射するが、弾は車体に跳ね返され全く歯が立たない。


 追跡用車両アルファ1が遠ざかって行く。


 その逆方向から、無数のタイヤの音がする。

かなりの数だ。

エンジン音は聞こえない。

多くの車両に単車、猛スピードでこちらに向かって来る。

基地の前で方向を変え、アルファ1に向かって走り過ぎていく。

そのうちの1台が戦場と化した基地の爆煙の中をおさむに向かってやって来る。

シボレー・カマロ、である。


 カマロは、おさむの前で止まるとドライバーが降りてくる。


「龍之介」


 降りて来たのは防音族現総長、悪多川龍之介である。


「よう、おさむ兄貴。今度は名前で呼んでくれたな」


「当たり前だ」


「しかし、ちょっと遅かったかな」


「ちょっとじゃない。かなりだ。サギャンの体が穴だらけだ」


「サギャン? まぁ、俺たちにはどうでも良い。とにかくトーマス・ウーマンのダチから連絡があってよ、こうやって応援に来たわけだ」


「何を言ってる? お前達は一般人だ。武器も何も無い」


「武器? あるぜ。バイクは30台近くある、ヘルメットでぶっ叩いて奇襲さ。車は50台を越えてるしな、体当たりよ。何よりも最高の武器はここよ」


 そう言いながら龍之介は胸を叩く。


「相手は機関銃だぞ。いや、他にもどんな武器を車に積んでるか分かったもんじゃない」


「俺たちは風さ、風に狙いをつけたって、全てが通り過ぎるだけさ。まぁ、兄貴達は安心してここで待っててくれれば良いさ。てか、ここも安心していられるような場所じゃなさそうだがな」


 あちこちで立ち上っている爆炎を見ながら龍之介が言う。


「お前ら」


「じゃ、一っ走り行ってくるわ。何心配そうな顔してんだよ。安心しなって、殺しゃしないよ、ちょっと遊び相手をしてやるだけだからよ。じゃな、おさむ兄貴」


「俺が心配してるのは、お前達だ、相手はプロの軍人だぞ」


 その言葉を背中で聞きながら後ろ手でさよならをして車に乗り込む。

龍之介を乗せたカマロがわずかに揺れると、音もなくエンジンが始動し、空回転したタイヤから白い煙が舞い上がり、勢いよくマシーンが走り出した。

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