第20話 鍵
漫画を描こう 20
ドアを叩く音が聞こえた時、おさむは同じように内側から叩いてみる。
すると突然叩く音が消えた。
一体何の音だったのだろうかと考える暇もなく、配膳用の窓と思われる窓が開いたような音がして、
「おさむ?」
と呼びかけられる。
「二葉か?」
「静かに」
再び声が答えると、今度はドアの向こうでカチャカチャと音がして、音も立てずに静かに扉が開く気配を感じる。
声を掛けようと飛びついてきたおさむを受け止めて、二葉はおさむの顔を手探りで探し、口を片手で塞ぎながらひっそりと言う、
「静かに、ここは暗闇の世界。監視カメラは役に立たない、その代わり盗聴マイクが仕掛けられているわ。今から喋らないで私について来て」
おさむは二葉の細い足首を掴みながら、四つん這いで歩いた。
二葉が何かの調子で動きを止めた時、立ち上がる気配がした。
そしてあの時と同じようにカチャカチャと音がすると、二葉は移動を始めた。
二葉の踵が上がった時、階段を登り始めたのだと分かった。
少し登ってから動きが止まった。
「ここで大丈夫」
とおさむに声を掛ける。
「ここは暗闇だけど明かりをつけた時用に監視カメラが取り付けられているの。そのかわり盗聴器はついていない」
今は暗闇である。
おさむは声のする方へと登っていくと突然双葉の両腕に掴まれ暖かな胸に抱き締められる。
「怖かったでしょ? 正直、私も、この作戦が上手くいくかどうか分からなかったんだもの」
「胡桃は外から割るものだ」
「そうよ、でも内側からも協力してあげるものよ。啐啄同時」
「俺には、鯨の腹割り、のように思える」
「どう言う意味?」
「小魚が鯨に食べられた時、そこから脱出するために鯨の胃袋を食いちぎって外界へ出る。そして腹を破られた鯨は海面で浮かぶ死骸になる」
「確かに、私達にとっては、そちらの方が近いわね」
「どうして独房を出られた?」
「私、門兵に頬を叩かれたわよね? その時に、あの兵士が私の口の中に合鍵を忍ばせたの。あの兵士は私たちのエージェントなの」
「それで、デスパイアと喋らなかったのか」
「喋れなかっただけ」
二葉は抱き締めているおさむの頭に頬を寄せて、
「もうすぐ朝だと思うの、作戦が開始される頃よ」
「ああ」
「それまで少し、休みましょう。疲れたままでは戦いにもならない」
そう言うと程なく、おさむの頭に寄せた双葉の頭が少し重くなったように思われ、おさむを抱きしめていた両腕がゆっくりと力なく落ちていったのを感じた。
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