第9話 微笑みの理由



 サギャンが微笑みながら言う、


「以上が、この作戦の概要よ。作戦名は、胡桃割り人形」


「チャイコフスキーのバレエを思い出すね」


 サギャンの言葉を受けて、おさむが言う。


「違うわ、フランツ・カフカよ」


「なるほど、神は我々に胡桃をお与えくださった、然し割ってはくれなかった、だったかな?」


「ならば、私達が割らなければならない」


「そうかい、分かったよ、サギャン。行くしかなさそうだな」


「外に私の車を置いてあるわ。案内するから付いて来て」


 部屋を出ていくサギャンの後ろをおさむと二葉が従う。


 門とは反対側の裏庭に出ると銀色に光る車が置いてあった。


「ジャガー・Eタイプ・リボーンか」


 おさむが声を漏らすと、


「ええ、私の愛車よ」


 とサギャンが答える。


「然し、三人乗るには一人が屋根の上に乗るしかないね」


 おさむの言葉に、


「貴方が助手席、運転が私では不満?」


 二葉が答える。


「いや、君の運転は二輪の走行を見て不満はない。俺が言いたいのは、サギャン、君だ」


「私は、この屋敷の地下道を抜けて別の場所から逃亡するの」


「逃亡?」


「ええ、そうよ。このアジトは既に見つかっているの。数時間後には空爆が始まるわ」


「なるほど分かった。然し、この切羽詰まった状態でも君はどうして笑っていられるんだい?」


「私にとって、笑顔は礼儀作法のようなものなの」


「素敵なお作法だ」

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