第3話 終宴

漫画を描こう 3


 帝塚山先生が目を覚ますと、そこはいつもと変わらない8畳一間であった。

あれ?と思う。

太宰府にヤンデルセンは何処へ行ったのだ?


 どう見てもいつもの一間。

宴会をしていたように思えるのだが、テーブルの上には原稿が散らばったまま。


「夢であったか?」


 そう呟くと原稿を見る。

ふと、原稿が動いたように見えたが、


「酒のせいか?」


 と思うが宴会をやった形跡が何処にもない。


「疲れているのかなぁ」


 などと思いながら目を擦って、もう一度、原稿を見てみると、漫画原稿の枠の中で何かが動いている。


「やはり疲れているんだ」


 そう一人合点していると、

漫画原稿の四角い枠の中から細い手が伸びてくる。

帝塚山先生は堪らず、


「うわ」


 と声を上げて後ろへ飛ぶ。


「そんな馬鹿な」


 そう言いながら、もう一度、原稿を覗き込むと、鉛筆で書いたはずの2次元世界が自然色になっているではないか。


 そして、その枠の中の美しい女性が泣いている。

美しい? 当然である。

心の中に居る憧れの女性を描いたのだ。

全てが自分の好みになるのは当然である。


元来、優しい帝塚山先生は、


「女の流す涙が見えた」


 自分の描いた自分好みの女性に感情移入している。


 そして、その女性があろう事か声を掛けてきた、


「助・け・て」


 元々、優しい帝塚山先生は、そっと漫画原稿へ手を差し伸べてみると。


「嘘でしょ」


 その言葉だけを3次元世界に残して2次元世界へと自ら飛び込んだような形で引っ張られて行った。

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