第2話 宴闌

漫画を描こう 2


 大きな音ともに引き戸が開けられた。

まさに力任せである。


「ヨウ、テヅカヤマ。ソレニ、ダザイフ モ イルデハナイカ」


 入って来たのはデンマーク人で児童文学作家のヤンデルセンである。

太宰府が最初に声をかける、


「おう、病ンデルセン、ではないか」


「ウーン、キミ ガ イウト ナニ カ オカシイ」


「何が?」


「ソウネ、ナンテイウカ ニュアンス ガ チガウ ヨウナ キガ スル」


「まぁ良いではないか。さ、こっちへ来てお前も食え」


 帝塚山先生が誘う。


「オウ、ユドウフ デハ アリマセンカ」


「違う、これは豆腐鍋だ」


 と太宰府が言う。


「酒もあるぞ」


 さらに酒に目の無い太宰府が続けて言った。


「エンカイ ヨイ デハナイデスカ」


 と、どんちゃん騒ぎが始まるが、宴も極まると作家同士だけあって、作品の話になったりもする。


 最初に声を掛けたのは太宰府であった、


「おい、病ンデルセン。新しく出した絵本がやけに売れているそうだが、あれはどう言うことだ? えーっと、薪売りの少女、だったか」


「オウ ヨンデ クレマシタカ?」


「お前の本は全部読んでいるが、あの本はいかんぞ、いいや、その前も、その前もだ」


「ナニガ?」


「雪の日に少女が薪を背負って街で売るか? しかも全然売れない? 当たり前だ、雪の日に誰がわざわざ薪を買いに街へ出るか? そして売れ残った薪で暖を取るために街のど真ん中で焚き火する奴なんかいるか? そして最後は焚き火の煙と共に天へと登る。夢がないんだよ」


「ナニガ ワルイ?」


「うるさい、最後まで聞け。そしてその前の物語だ。黒い靴、だ。貧しくいじめられっ子の少女が黒い靴を履いた途端に蹴りの名人になり悪党どもを蹴りまくるだと? そして蹴りが止まらなくなったところを警察に捕まって両足を切断? 少年少女が読む物語じゃないぜ。そして最後に教会へ入れて浮かばれたと思ったら、また天へ登って、終わり」


「テンゴク ハ ヨイデハナイカ」


「やかましいわ、黙って聞いておれ。あの、猪の親子、ってなんだ? 立派な猪になって牡丹鍋になるのが猪にとって最高の幸せだって? おい、死んでるじゃないか、牡丹鍋で食われているじゃないか! この死ンデルセン野郎が」


「モウ、ユルセナイ」


「まぁまぁ、病ンデルセン」


「テズカヤマ オマエ モ ナニカ チガウ ニュアンス デ ワタシ ヲ ヨンデイナイカ?」


「そんな事はないぞ、ヤンデルセン。ほら、飲め。太宰府君は辛口の批評家だ。酒の席だ、悪気じゃなくて論評なんだ。勉強できたと思いたまえ。確かに酷評ではあるが、彼は人の悪口ばかり言っている訳ではないんだから。その証拠に自分のことを人間失格とまで言っているくらいなんだ。ほら、俺に免じて、さ、楽しく飲もうや」


 と、1番の年長者らしく帝塚山先生が互いを諭す。

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