漫画を描こう

織風 羊

第1話 豆腐鍋

漫画を描こう 1


 質素な部屋である。


 テーブルの上には描きかけの原稿が散らばっている。

床にも・・・。


 売れない。


 帝塚山 治 先生の漫画は売れないのである。


 帝塚山先生は考える、


「どうして売れないのだろう?」


 面白く無いからであることに気付かないでいる。


 今夜も漫画を描かずに、いや、描けずに鉛筆を耳に挟んで過去の原稿を眺めている。


 そんな所へ玄関でガタガタと物音がする。


「おい、俺だ、入れてくれ」


「鍵なら24時間掛かっていない、勝手に入れ」


「それにしては引き戸が開かないぞ」


「コツがある、忘れたか? 一度持ち上げてそのまま引っ張れ」


「おお、開いたぞ」


「当たり前だ、だから引き戸と言うんだ」


 今度は扉を閉めるのに手こずっているようであったが、彼は入って来れたようである。


「今頃何だ? 太宰府」


 彼の名前は、太宰府 治、売れっ子の漫画家である。

と言っても帝塚山先生よりも少しだけ売れているに過ぎない。


「銀行へ行ったら原稿料が入っていたようでな、一緒に鍋でも食おうかと」


「おお、それは有難い。で、何鍋だ?」


「豆腐鍋だ」


「それは湯豆腐というのではないか?」


「いや、違う。少ないが白菜とネギもある」


「どちらにしても有難い」


「だろう、そして、これだ」


 紙の手提げカバンから出して来たのは、焼酎である。


「おお、さらに有難いではないか」


 こうやって二人だけの宴会が始まった所へ、さらに客人が訪れてきた。

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