三十三話 お姉さん
「月夜が…………子供じゃない?」
九凪は思わず確認するように口にしてしまったが、言われてみれば確かにそうだ。
具体的な年数はわからないが月夜は遥か昔から封印されていた神様らしい。それはつまりたかだか十数年しか生きていない自分よりも遥かに長い年月を彼女は生きて来たということになる。
「お姉さんじゃぞ!」
月夜が九凪に向けて両手を組んで胸を張る…………どう見ても子供が見栄を張っているようにしか見えない。対照的に彼女と友人であったらしい真昼のほうはきちんと大人のお姉さんという姿かたちをしている。
「まあ、月夜は永く封印されて記憶も力も失ってしまいましたから」
そんな彼の視線に答えるように真昼が口にする。
「それで姿も変わってしまったってことですか?」
「今と同じ姿ではありませんでしたね」
真昼は肯定したが引っかかるもの言いだった。
「元の姿に戻れば真昼などと比べ物にならぬほど魅力的な姿じゃぞ!」
「…………」
記憶がないはずなのになぜそんなに自信満々なのか。確認するようにもう一度真昼を見るが彼女は顔を逸らした。少なくとも月夜が自身で想像するような姿では無いのだろうと九凪は判断する。
「そんなことよりです」
それ以上話題を掘り下げないためか真昼が話を切り替える。
「重要なのは今後の話ですよ」
「それはさっきも聞きましたけど…………」
その流れで真昼が子供ではないという事実の確認をしたのだ。
「つまりですね…………ああ、その前に確認しておかねばなりませんでした」
説明しようとして真昼がそれを中断する。
「あなたは月夜に告白して今後の人生を共に歩む決意をした…………それで間違っていませんよね?」
「ええと…………はい」
気恥ずかしいが九凪は頷く。元々その報告をするために真昼へ会いに行くところだったのだ。
「むふー」
そんな彼の返答にたまらぬというように月夜が相好を崩す。そんな彼女を疎ましいように見やってから真昼は九凪に視線を戻した。
「あなたのことですからただその感情のままに決めたのではなく、月夜との関係が難しいことも含めてしっかりと考えたうえでの決断でしょう」
「…………それは、はい」
世間的に見て歓迎されるものではないのを九凪も理解していた。だからこそ外堀を埋める意味でも真っ先に真昼に報告しに行こうとしていたのだから。
「ですが、あなたの想定は覆されることとなりました。なぜなら月夜の年齢はあなたよりも上であるわけなのですから」
「…………そうなるん、ですか?」
理屈で言えば正しいのだろうけどつい九凪は月夜を見てしまう。
「なんじゃ?」
「いや、可愛いなって」
「くふふ、そうじゃろう!」
嬉しそうに月夜は笑みを浮かべるが九凪の口にした言葉の意図は違う…………どう見ても子供のように可愛らしいなという意味だった。その姿を前にしてしまっては事実上の年齢とかはあまり関係ないように思えてしまう。
「問題ないでしょう」
けれどきっぱりと真昼は言い切る。
「肉体的に幼く見えても神ですから頑丈です。性行為を行ったとしても後遺症が残ったりというようなこともありませんよ」
「せっ…………!? いや、そういう話をしているのではなくっ!?」
「ああ、保護者の立場からすればやはりキスあたりから段階を踏んで欲しいとは思いますが」
「だから!?」
「あの子は乗り気のようですよ?」
「っ!?」
指摘されて即座に九凪は月夜へと視線を向けた。
「キスにまぐわい…………くふふ、そうか。もう子供と偽る必要もないから九凪とそう言うこともできるのじゃな! 楽しみじゃな!」
顔を赤らめて蕩けさせるように想像を膨らます月夜の姿がそこに在った。
「つ、月夜?」
「なんじゃ?」
動揺したように彼女を見る九凪に月夜は朗らかに視線を返す。
「え、えっと月夜は…………僕とそう言うことしたいの?」
「したいぞ!」
即答された。
「そ、それはなんで…………?」
「だってそれはわしと九凪が大好きであることを確かめ合う行為なのであろう?」
「ま、まあそんなようなものなの…………かな?」
「で、あればいっぱやるべきではないか!」
にこにこと、無邪気なままで月夜は言う。
「それとも九凪はわしとそういうことをするのが嫌なのか?」
そこからいきなり寂しそうな表情を浮かべて彼を見上げる…………その落差に耐えられる人間がいるだろうか。少なくとも九凪には耐えられなかった。
「も、もちろん嫌じゃない…………よ」
「ならすぐにいっぱいするのじゃ!」
諦めたようにそう口にする九凪だが、彼がそう返答すれば月夜の反応は当然そうなる。
「…………そ、それにはもっとたくさん段階がいるんだよ」
「ふむ、そうなのか…………何をすればいいのじゃ?」
「ええと、それは…………」
とっさのごまかしを確かなものにすべく九凪は必死で思考を巡らせる。
「もっとたくさんデートに行ったり」
「うむ!」
「一緒に遊んだり、話したり」
「他には?」
「他は…………同棲したり」
「同棲!」
駄目だ、全然出てこないと窮しながら適当に口にした九凪の言葉に月夜が食いついた。
「一緒に住むのか! それはとてもよいな!」
「あ、それは…………」
「なかなか良い考えですね」
月夜の飛びつきように失言だったと気づく九凪だが、そこに真昼まで食いついた。
「あ、あの真昼さん?」
「すぐに手続きをしてしまいましょう」
挽回するチャンスなどなく、無慈悲に真昼は彼へと告げた。
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