011 PT狩り

「へぇ、武器の二刀流って便利そうだな」


「はい、とても便利ですよ。ヤスヒコ君が強すぎてプロテクションワンドは貢献できていませんが……」


 レベル13のダンジョンでも、ヤスヒコは無双していた。

 単騎で突っ込んでザコからボスまでもれなく皆殺しにしていく。

 メグとサナは後ろからサポートしていた。


「火球を放つだけメグよりは活躍しているよ」


「ほっとけー!」


 昨日と同様、今日も稼げるだけ稼ぐ方針だ。

 それがメグの条件であり、ヤスヒコも不満がなかった。


 ヤスヒコにとっても、メグたちは必要な存在だ。

 今はソロで十分だが、いつまでこの状態が続くか分からない。

 いずれ厳しくなってきた時に、仲間がいれば可能性が広がる。


 それに、PTでの活動はギルドでも推薦されていた。

 ソロとPTの攻略条件が同じという点からもよく分かる。

 オンラインゲームと違い、あえてソロにこだわる理由がなかった。


「それにしてもこのダンジョンあっついねー! 夏かっての!」


 戦いが終わると、メグはブレザーを脱いだ。

 シャツが汗ばんでいて、レースの黒いブラが透けている。

 首筋に流れる汗が艶めかしかった。


「ああ、本当に暑い。最高だな」


 ヤスヒコは水平に寝かせた左手を額に当てて空を見る。

 燦然と輝く太陽が、これでもかと三人を照らしていた。


 残念ながら周囲に遮るものはない。

 泉州第一のレベル13ダンジョンは砂漠フィールドなのだ。


「最高じゃないし! つーかヤスヒコの武器で涼ませてよ!」


「どうやって?」


「適当な場所に氷の塊を作るとか何かあるっしょ!」


「なるほど名案だな」


 ヤスヒコはその場で剣を振るった。

 灼熱の砂漠に小さな吹雪が起きて、彼の足下を凍らせる。


「しゃー! 涼めるぞー!」


 メグはすかさず飛び込んだ。

 しかし、ヤスヒコの作った氷は冷たくなかった。


「なにこれ!」


 ヤスヒコも氷に触れて「本当だ」と驚く。


「もー、メグは馬鹿だなぁ」


 サナはクスクスと笑った。


「どゆこと!? なんかおかしかった!?」


「ダンジョン武器で作った氷が冷たいわけないじゃん。温度を感じるものだったら、使用者がまともに扱えなくなっちゃうよ」


 サナの説明に、ヤスヒコは「たしかに」と納得する。

 一方、メグは「どゆこと?」と首を傾げていた。


「氷だとイメージしにくいだろうけど、例えばサナの使っているファイヤーワンドで考えると分かりやすいんじゃないか」


「……どゆこと!?」


「温度を感じるなら、火球を放った時に火傷するってことさ。でもサナは何発火球を出しても平然としているだろ? それはダンジョン武器の火球に熱さを感じないからさ」


「あー、なんとなく分かったかも! 同じ理屈で氷も冷たくないってことね!」


 サナは「常識ですよね」と、笑いながらヤスヒコに振る。


「俺も知らなかったけどね」


「え! 本当ですか!? ご、ごめんなさい!」


 慌てて謝るサナ。

 そんな彼女を見て、メグは「形勢逆転だぁ!」と笑う。


「たぶんアキも知らないだろうから3対1だね!」


「アキなら知ってるって!」と反論するサナ。


「アキっていうのは?」


 ヤスヒコが尋ねた。


「私らの友達! 普段は私とサナとアキの三人で行動してるんだよねー!」


「ヤスヒコ君と同じでアタッカーなんです」


「するとアキがメインで戦って、それを二人がサポートする感じ?」


「そうです。私もファイヤーワンドで少しなら戦えるのですが、基本的にはアキが戦いますね」


「なるほど」


「ヤスヒコぉ、アキは強いんだぞー! なんたって空手を習っていたんだから!」


「空手が関係あるのか?」


「そりゃあるよ! だってアキはパンチとキックで戦うもん! 装備も攻撃に特化してるし、わりとヤスヒコっぽいところがあるよね!」


 サナが「だね」と頷いた。


「武闘家の女か。見てみたいな」


「今度紹介してあげるよ! PTは四人までいけるし、皆で狩ろー!」


「メグは喋っているだけで役に立たないけどな」


「うるせー! パニックロッドなめんなよー!」


 そんなこんなで、三人は楽しいひとときを過ごすのだった。


 ◇


「これでヤスヒコも私らと同じレベルだねー!」


「おめでとうございます、ヤスヒコ君!」


「サンキュー」


 日が暮れた頃、三人はギルドに帰還した。

 大量の魔石で鞄をパンパンに膨らませて。

 まずは換金だ。


「上級魔石が4個と魔石が185個で138万6000円になります」


 受付嬢が査定額を伝える。

 メグとサナは「ひぇぇぇ」と飛び跳ねた。


「ひゃ、138万円!? たった数時間で……」


「ね? ヤスヒコってすごいっしょ!」


「ほんとに……」


「そりゃ私もヤラせるって!」


 盛り上がる二人をよそに、ヤスヒコは額に間違いないか計算していた。


 上級魔石はダンジョンレベル×1万円+5万円だ。

 今回の場合は1個18万円なので、4個で72万円になる。


 通常の魔石はダンジョンレベル×200円+1000円だ。

 今回の場合は1個3600円なので、185個で66万6000円になる。


 72万円と66万60000円を足すと、答えは138万6000円。

 受付嬢の査定は1000円単位まで正確だった。


「ボスが複数いたおかげで稼ぎやすかったな」


「あーたしかに! 今まで1ダンジョンに1体しかいないと思っていたよ!」


「私も知りませんでした」


 換金したお金は三人で山分けだ。

 総額が20万円を超えているため、各人の口座へ自動的に振り込まれた。


 分配金は一人当たり46万2000円。

 とても数時間で叩き出したとは思えぬ稼ぎだ。

 メグやサナが興奮するのも無理はなかった。


「じゃ、今日も美味しいもん食べに行くかー! 私が奢ってやらぁ!」


 上機嫌なメグに連れられて、二人は夜の街に繰り出した。


 ◇


 夜、ヤスヒコにとって嬉しい出来事が起きた。

 メグが勝手にインストールしたニュースアプリを見ている時のことだ。


『レイナ、改めて宣言! 付き合いたいのは国内最強の冒険者!』


 そういう見出しからなる週刊誌の記事だ。

 レイナが公言している恋愛対象について書いてあった。


「世界トップじゃなくて日本人のトップって意味だったのか」


 記事によると、レイナが付き合いたいのは国内のトップだ。

 もっと言えば日本人であることも条件に含まれている。


 期日は彼女が卒業する26年の3月。

 もっと言えば卒業式の日の23時59分59秒。

 その時点で1位の冒険者に彼女から告白し、振られたら諦める。

 二位以下で妥協するつもりはない。


「なんだ、それなら焦る必要はなかったな」


 ヤスヒコはこれまで世界最高レベルを目指していた。

 つまり最低でも500レベルは上げるつもりでいたのだ。

 約700日で。


 しかし、国内最高レベルなら200レベル程度で済む。

 ギルドの仕様上、300レベルの差は非常に大きかった。

 これなら無休でダンジョンに行く必要はない。


「今度から週に1~2日は休みを挟むか」


 万全のコンディションを維持するのも大事なことだ。

 がむしゃらに戦い続ければいいというものでもない。

 そう思い、ヤスヒコが方針を転換した時だった。


『こんばんは、ヤスヒコ君!』


 サナからLINEのメッセージが届いたのだ。

 グループルームではなく、個別ルームで送ってきていた。


『こんばんは、どうしたの?』


 ヤスヒコは速攻で返した。

 一瞬で既読マークが付き、サナが用件を言う。


『明日もダンジョンに行くなら、私も一緒にダメですか?』


 少し前まで明日はソロの予定だった。

 メグの都合がつかなかったからだ。


 しかし、今は休むつもりでいた。

 レイナのハードルが下がったから。

 少なからず疲労を感じている。


(どうしようかな)


 ヤスヒコは返事に悩んだ。

 休むからと断るべきか、承諾するべきか。

 数分考え、彼は答えを出した。


『OK、一緒に狩ろう。レベル上げを急ぐ必要がなくなったから、レベル10のダンジョンとかでもいいよ』


 かくしてヤスヒコは、明日も女子とPTを組むことになった。

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