第2話 異世界でも変わらないモノ
(暑いな…幾ら猛暑日と言っても限度があるよ…)
そう思いながら制服のブラウスをばたつかせる。
教室の男子の目線がこちらに向くが、それよりも汗でベタつく肌の方が気になる…
そんな中でも目線を向けてこない男子が一人居る。
(月宮イツキくん…)
そう。私、『如月ルイ』の隣の席に居るにも関わらず一度も話しかけてくることは無い男子。
…なんで、同級生にいてほしいランキング学年一位兼今一番キている読モランキング総合二位の私の隣でその女が胸元開けてるのにチラ見すらしない。良いことだけど理解できない。
この人はあろう事か奇跡的な確率で一番後ろの窓際の席の私の隣とかいう大当たりを引いたくせに、話しかけてくることもチラ見すらせず、机に突っ伏して眠ることを優先するイカれた人なのである。
あまりのその態度により、クラスでは【月宮には性欲が存在しない説】なんてものもある。
そんなわけで、男子の大半から恨まれてるし、女子からもクラスメイトなのに話さないのはどうかしてるとしてこれまたほとんどから嫌われてる。
私も
…そう彼が昼間、眠そうなのには理由がある。
私が《それ》を知ったのはホントに偶然だった。
撮影の終了が少し遅くなってしまい何時もより遅い電車で帰った時の事…
その日はトラブルに巻き込まれて、心身共に疲れていた私は、後ろから付けられてる事に気付けなくて、ストーカーに路地裏に連れ込まれて襲われそうになった…恐怖で声も出せなくて、(もうだめだ…)と思って目を瞑ってこれからくる嫌悪感に耐えようとした。…けど、その嫌悪感はくることはなかった。なぜならストーカーが後ろから襲われ、気を失ったから…
そしてそこに居たのは、汚物を見る目でストーカーを拘束している月宮イツキだった。
彼からは時々、「ゴミが…」とか「お前みたいなやつが居るせいで…」とかの悪態が聞こえてきたけどその時はなにが起きたのかも理解できなくて、ただ放心していた。そうして縛り終わったのか手を払いながらこっちに来て、「おい。大丈夫か?」なんて言って手を伸ばしてくれた。
月光に照らされた彼は少し格好良くて。
……なんか恥ずくて掴まずに立ち上がったけど…
そしたら、「…立てるなら大丈夫だな。」なんて顔を赤らめながら言ってて、笑いそうになった。そしたら「警察に通報したからあとよろしく。」なんて言って、どっか行こうとしたから「どこ行くの?」って聞いたら「…パトロール」と一言だけ呟いて、何処かに行ってしまった。どうしようかと考えてると警察が来たので事情を説明した。
警察の方は察したように「またか…」なんてちょっと笑顔で呆れてた。
それが私が彼を知った理由。
後日、彼にお礼しようとしたんだけど
一言「…誰?」って言って眠っちゃって困ってた所を今の《仲間達》に見られたのが彼をより知った理由。《仲間達》は私と同じで彼に助けられた人や関係者と彼のお姉さんの集まりである。
お姉さん曰く、彼はストレス発散であんな事をもう何十回も繰り返してるらしい。最初の方は警察のお世話になる事もあったけど今では通報して、証拠を残さず逃走する為、どうしようもないとのこと。
学校に通告する方法もあるが彼が学校に行かないとその時間も『パトロール』するだろう。と言う共通認識で連絡されてない。
なんて過去を思い出して、他の仲間達と話に行こうと立ち上がった時に頭痛と目眩がして床に座り込んでしまった。
辺りを見れば、皆、同じ様に頭を抑えながら座り込んで居る。中には完全に意識を手放した子達もいる
(なにこれ…どうしよう?…月宮くんは?!)
月宮くんを見れば変わらずにそこにいてなんだか少し安心した。
けどもう限界だ…そうして私は意識を手放した
◇◆◇◆◇◆◇
そっからはトントン拍子だった気がする。
変な空間で目覚めて…月宮くん居ないから探して…そしたらふらっと現れて…異世界に行く事になって…異世界に行って…馬車乗って…城に到着して…と気付いたらパーティーがどうのこうのになっていてそれまでみんなで大広間で話す事にした。
私の周りは《仲間達》の二人がいる。
体育会系の彼は『早乙女シンジ』。一年でありながら運動部における最強のヘルパーとして、学校で話題の人物である。
もう一人の身長が平均より低い彼女は低身長ギャル系グラビアアイドル『九藤アヤセ』
もとい『久堂サーヤ』。クォーターの血が存分に発揮され抜群のプロポーションを誇る。そのくせに、若干の天然でマイペースとかいう、私より男子の目が大変な子でもある。
そんな二人とこれからとスキルについて話し合っていた。
「とりあえず俺からな。俺はパーティーで何があるか聞いてきた。なんでも国王様からのお話があるとか。」
「ん〜?それって〜多分神様から聞いた話の事に関わりあるよね~?」
「そりゃあるでしょ…人類の生存圏の確保…」
「期待はしないでほし〜よね。」
「期待どうこうは関係ない。確実にやらされるだろうな…」
「「「…はぁ~」」」
「まぁ嘆いても仕方ない…俺らのできることを確認していこう。」
「じゃあまず、私から〜」
そう言ってサーヤはステータス画面を見せてくる。
久堂サーヤLv.1
HP160/160
MP270/270
STR60 VIT40 DEX75 AGI55 INT35 LUK70
『ノーマルスキル』
『魅了Lv.Ⅳ』『視線感知Lv.Ⅳ』『交渉Lv.Ⅲ』
『健康Lv.Ⅱ』『回避Lv.Ⅱ』
『ユニークスキル』
『状態異常無効Lv.Ⅳ』『天然LvⅣ.』『臨機応変Lv.Ⅲ』
…なんてコメントしよう?わかったのは戦闘要員では無いことぐらいだ。まぁ、サーヤはあんま戦わせたくなかったから良かった…
「戦闘はなしだな。」「そうね主に交渉かしらね?」
「二人ともわかったよ〜じゃ戦闘は任せた。」
「おうよ!俺に任せとけ!」
そう言ってシンジもステータス画面を見せてくる。
早乙女シンジLv.1
HP370/670
MP160/160
STR110 VIT135 DEX145 AGI200 INT40 LUK60
『ノーマルスキル』
『高速再生Lv.Ⅴ』『筋力上昇Lv.Ⅳ』『忍耐LvⅢ.』
『加速Lv.Ⅱ』『鼓舞Lv.Ⅱ』
『ユニークスキル』
『韋駄天Lv.Ⅴ』『万能武装Lv.Ⅲ』
…こっちはこっちで完全に戦闘特化だな…
まぁ戦闘はは任せられそうだ。
「なんか戦い得意そうだね〜」「戦闘は任せたわ」
「おう!どんな敵も多少は凌いでやるぜ」
「蹴散らすとは言わないのね」
「そりゃあ…限界はあるだろ?」
「シンジ君は変に現実思考だね〜」
「別に良いだろ?それで?如月のは?」
「私も気になる〜ルイちゃんみ〜せ〜て〜」
「そんな急かされなくても見せるから…はいどーぞ」
如月ルイLv.1
HP420/420
MP360/360
STR90 VIT105 DEX165 AGI240 INT60 LUK80
『ノーマルスキル』
『看破Lv.Ⅴ』『千里眼Lv.Ⅳ』『気配感知Lv.Ⅳ』
『索敵Lv.Ⅲ』『指揮Lv.Ⅲ』『隠密Lv.Ⅲ』
『ユニークスキル』
『検索Lv.Ⅴ』『情報統制Lv.Ⅳ』『共有Lv.Ⅳ』『奇跡』
「…あのさ〜」「…お前も同じか?サーヤ。」
「「なんか強くない(な〜い)?」」
…言われると思ったよ。二人のステータス見てて、気づいたよ…なんかおかしいって…
「それに〜?ユニークの『奇跡』って何?」
「確かにな。こいつだけレベルが無いな。」
…そうこの『奇跡』が問題だった。
『奇跡』
【説明 崇高なる願いより生まれ、人々に共に変革を起こしたモノ。その権能の一欠片】
【効果 確率を超え、結末に至る。】
他のスキルに比べて難解すぎる。
発動方法も不明。使い方も不明。何が起こるかも不明。そんな不明だらけのスキル。
「それが良くわかんなくてね…取り敢えずは封印かな?」
「まぁそれが妥当だろうな」
「そうだね〜。「代償はお前の命だぁ~」なんて嫌だからね〜」
『奇跡』なんて言うからには代償が【命】…その可能性はゼロでは無い。
「そういや『検索』ってやつはしたのか?もしかしたら…」
「いや、もう検索済みだよ…」
真っ先に私は『奇跡』を『検索』した。
『検索』は、私が知った固有名詞の情報をその名の通り、検索することのできるスキル。
「それで〜結果は〜」
「……該当無し。」「「わぉ…おつ」」
そう結果は【該当無し】だった…それがレベル不足なのか本当に該当が無いのかは分からない。
「なので、何かわかるまでは二人も秘密で…」
「「了解した(したよ〜)。」」
それからはいつの間にか月宮くんが見えない事とか他愛も無い話で時間を潰していた。
そうして、月明かりが照らされる頃。(ちなみに転生したときにはもう夕暮れ過ぎだったためそこまで時間は経っていない。)
メイドさんたちが大広間に入って来て
「皆様大変お待たせ致しました。パーティー会場のご用意が整いました。移動の方をお願い致します」
そうしてパーティー会場への案内が始まる。
月宮くんがまだ見えない…『千里眼』を使い探してみると、部屋で寝ている。
(ここでも変わらないね…)
「すみませんが仲間が一人部屋で寝ているので起こして来ますね。」
「それでしたら私たちが…「あぁ…いえ」」
「彼、寝起きがすこぶる悪いので知り合いの私が起こして来ますね。」
「畏まりました。ではこの部屋に一人残しておきます。起こし終わりましたらその者に案内をしてもらってください。」
そうして何やら指示が何回かとんだ後、一人のメイドさんが壁際で待機してくれている。
「すいませーん!すぐ呼んで来まからー!」
そう言いながら彼の部屋に向かう。
廊下の天窓からの月光が彼の部屋の扉を照らしてくれていた。落ち着いてから扉をノックする。
「おーい月宮くーん?パーティー始まるってさ」
聞き耳をたてると中から足音が聞こえたのでちゃんと起きてくれたみたいだ。良かった…。
少しした後、
「ありがとう。お礼にコレどうぞ。」
そう言い私の手のひらに何かを渡してさっさと先に向かってしまう。
渡されたのはどこで手に入れたのか分からないが、月光を浴びて、異様に煌めく青い薔薇だった。
貰ったバラを胸ポケットにしまい、私は駆け足で彼の後を追うのだった。
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