第15話 大失敗!!

「──ごめんね、アヤミチ」


 変異スライムの巨体が地面に崩れ落ち、森の中を地響きと激しい騒音が轟く中、麗美に輝く剣を鞘にしまいながら、剣士ルルドロスは勇者アヤミチに謝罪を行う。


「...?何がだよ」


 アヤミチは、何故ルルドロスが謝ったのか分からずに首を傾げる。そんなアヤミチは、生と死の綱渡りを人生で初めて渡った事による極度の緊張からか、額には冷や汗がこびり付き、足には上手く力が入らない。


「僕が到着する前、変異スライムに攻撃しようとしたろう?それを邪魔したのは無粋だったかな、って」


 ルルドロスは、鞘に仕舞った剣の柄を撫でるように手を滑らせ、苛立つ程に輝く瞳をアヤミチに向けながら話す。


「勢いよく大声で叫んでいたし.....」


「──その一言要らねぇな!!見て見ぬふりしてくれよ恥ずかしい!」


 アヤミチは、地団駄を踏んでルルドロスに反発する。それに対して当の本人は、申し訳なさそうに頭を下げて落ち込んでいるため、本当に悪かったと思っているのだろう。


「.....で?あいつどうやって倒すよ。あとリリアは?」


 ルルドロスの調子に狂わされたのか、アヤミチは細い指で頭を掻き、こうして話している間にも再生をしている変異スライムを指差し、話を変える。

 ついでに、依然行方不明となっているリリアの事も心配しておく。


「....許してくれるのかい!?」


「うるせぇ!年頃の思春期男子舐めんな!あと、話戻すんじゃねぇよ!」


 話を摩り替えたアヤミチに、ルルドロスは目を見開いて驚き、二体の魔物そっちのけで会話を戻す。そんなルルドロスに、アヤミチは腹を立てて怒鳴り、自分でも何を言っているのか分からなくなりながらも、どうにか怒りのようなものを治めようとする。


「そうか.....とりあえず、リリアはあっちの草むらに隠れて治療をしてるよ。ちょっとだけ怪我をしたみたい」


 ルルドロスは、アヤミチの言葉に激しく落ち込んで俯くも、すぐに視線を変異スライムの方向に戻し、リリアの安否を伝える。


「リリアは無事、と。あいつの活躍に乞うご期待───」


 アヤミチは、赤毛の美少女を頭の中に思い浮かべながら、腕時計で時間を確認するように、右腕の手首を眺める。勿論、右腕に腕時計は着いているはずもない。

 エアー腕時計を眺めていると、どこからとも無く風を切る音がアヤミチの鼓膜に届き、直後に脇腹辺りに打撃を受けたような痛みを感じる。


 その痛みの主は、アヤミチを腕の中に抱擁しながら猛スピードで移動しているルルドロスであり、アヤミチは間一髪でクルシマラの突進から助けて貰ったのだ。


「この野郎ぉーー!!人が話してる間に悪質タックルとか、常識は無いのか常識は!?」


 アヤミチは、ルルドロスへの感謝よりも先に、話している最中に猛突進してきたクルシマラに対する怒りがふつふつと湧き、ルルドロスの腕の中から怒声を上げる。


「魔物に常識はないと思うけど....」


「──るせぇ!!比喩だよ比喩!」


 最早、比喩という単語の言いずらさにも苛立ってきたアヤミチは、その怒りの矛先を図々しくルルドロスに向かわせる。

 ルルドロスは、再び表情を沈ませ、綺麗な面立ちの顔に影を作る。


 アヤミチは、ルルドロスの腕から開放されると、姿勢を低く構えて剣を勢いよく引き抜き、その鋼を真っ直ぐに変異スライムへと向ける。


「あのデブスライム、どうやって倒すよ」


 アヤミチが変異スライムに向ける剣には、斬撃や猛突進などによって抉れた木々が反射しており、その凄惨さを鋼を通してアヤミチに訴えていた。


「デブ.....あの変異スライムの再生速度を考えると、一撃で倒すしか無いだろうね。そして、その一撃必殺の仕掛け役に、ピッタリの適任がいる」


「...と言うと?」


 ルルドロスは、口元を綻ばせて苦し紛れの笑みを浮かべながら、戦場の半分を占める巨体の変異スライムを指差す。


───否、変異スライムの頭上で、優雅に飛び回っているクルシマラに指を向けた。


「.....クルシマラを変異スライムに突進させれば、変異スライムの再生速度を上回る攻撃に出来る、と思う」


 アヤミチは、ルルドロスの言葉に、右手で了承の合図を送り、剣を腰辺りまで下ろし、目線は変異スライムに向けたまま、片足を後方に大きくずらし、姿勢を低く構える。


 途端に、戦場から音が消え去ったように、世界中に人間がアヤミチを注目しているように、アヤミチには耐えきれない程のプレッシャーと、それに値する高揚感が支配していた。


(この、空間が俺を注目しているような感覚....この圧倒的魑魅魍魎感...ダメだ、上手く言おうとすると失敗する。)


(でも、なんだろうな....変な感じがする)


 直後、クルシマラの金切り声が上がり、紅梅色の身体で捨て身のタックルをされる。しかし、アヤミチはその長い胴体を軽々しく避け、明らかな身体能力の向上を認識した。


 クルシマラは地面に突き刺さり、ルルドロスは動きを止める。


 アヤミチは、しっかりと変異スライムを視線で捉え、剣を掴んでいる右手に精一杯の力を込める。そして、アヤミチは剣を振ろうと火照った顔を震わせる。


 瞬間、勇者アヤミチの剣を輝光が包み、その場にいる全員の視線が、アヤミチに集中した。


「ちょ、アヤミチ....」


 アヤミチは、ルルドロスの戸惑いの言葉を耳に入れず、勢いに任せて光を纏った鋼を一切の余力無く振るう。


 アヤミチの振るった剣の軌道に沿って、巨大な剣波が変異スライムを襲う。その剣波は、光を纏って白く輝き、恐ろしさと美しさを兼ね備えていた。

 その様子を見ていたルルドロスは、感動したのか、はたまた実力の差を目にしたからか、その場に呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。



 そして、森に巣食う二体の魔物。内一体は、その肩書きを降ろしたのだ。









初得魔法:主人公補正

・基本能力→身体能力強化、補正


・性能①→→"仲間との出会い"

・性能②→→※※※

・性能③→→※※※

・性能④→→※※※

・性能⑤→→※※※、※※※

・性能⑥→→※※※

・性能⑦→→"覚醒"

・性能⑧→→※※※

・性能⑨→→※※※

・性能⑩→→※※※

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