第11話 大罪人ガーネット
王城一階に位置する大広間。特に家具などの置物は無く、ただ広い豪華な部屋と言った感じだ。相変わらず装飾が激しく、目が痛い光景だ。そんな大広間に、アヤミチとルルドロスの二人の目の前に、マグナスと噂の女子が立っているという状況だ。
「...ほんとに16歳なのか?」
へたれた背筋で突っ立っているアヤミチは、目の前にいる小柄な少女を見て思わず年齢を疑ってしまう。それもそうだ。身長は178cmある自称高身長のアヤミチよりも一回りも二回りも低い。隣で呆けた面をしているルルドロスと比べれば、その差は歴然である。
身長だけでなく、目の前の少女は童顔でアヤミチが今までに見てきた女性の中でも、かなりの上位に食い込む美少女であった。
少女は、褐色の入り交じる緋色の髪を後ろで縛っており、深い青色の双眸は、まるで炎と湖の対比のようだった。
赤と黒を基調とした軽装の戦闘服で、少しゆるゆるな、肘程まで伸びている袖から飛び出ている白い腕は、少し力を入れればすぐに折れそうな細さをしていた。
動きやすさを重視しているのか、極度に短い短パンを履いており、黒いストッキングで肌を守っているようだ。
「心の声が漏れてんぞ...マグナス、勇者ってこんなもんなのか?」
その小柄な少女は、子供らしい高音の声でマグナスに細めた目を向ける。少女の声は力強くハッキリと耳に届く声だが、どこか優しさの含まれている声で、嫌な気分にはならなかった。
「ま、まあとりあえず自己紹介からだ」
マグナスは、少女から目線を向けられると、以前の威厳はどこへやら、謙虚な姿勢になる。少女は、自分の問いを無視したマグナスの発言に、平らな胸の前で腕を組み、少し不機嫌な表情を示す。
「名前は【リリア・ガーネット】初得魔法は基本炎魔法。使い勝手は悪いけど...まぁ、足手まといにはならねぇよ」
小柄な少女──リリア・ガーネットは、不器用にも恐らく昨日の夜から考えていたであろう自己紹介を行い、少し顔を火照らせる。
「僕はル──」
「俺はアヤミチ!勇者アヤミチだ、よろしくなリリア!」
ルルドロスと自己紹介のタイミングが合わず、アヤミチはルルドロスの言葉を遮る形で自己紹介をしてしまう。ルルドロスは、アヤミチに嫌な顔ひとつせず、咳払いをして改めて自己紹介を行う。
「僕はルルドロス。騎士...剣士かな?とにかく、よろしく、リリア」
ルルドロスは自己紹介を終えると、リリアの前に手を差し伸べ、腰を曲げて握手の姿勢を取る。
リリアは、アヤミチ達のやり取りを見て、懐かしげに口元を綻ばせ、視線を落とし、悲しげな笑顔を浮かべた。その笑顔は、誰にも見抜けられないような微弱な表情の変化だった。
「──お前、そんな顔もするのな」
否、アヤミチだけは、リリアの些細な表情の変化を見逃さなかった。アヤミチは、リリアに"仲間"として、優しさの籠った笑顔を向けた。
「....あたし一人の力じゃ、魔王の元まで辿り着けない、と思う。だから、」
リリアは、拳を弱々しく握り、アヤミチ達に訴えかけるように自分の意思を話し始めた。
「だから、その...あたしも一緒に、着いてっていいかな....?」
少し怯えているような、まだ覚悟が出来ていないような表情をした後、リリアは決意したようにアヤミチの眼を真っ直ぐに見つめた。それは、殺人未遂を犯したとは思えない、純白で力強く、水すらも燃やす炎のような、とても心強い眼だった。
こうして、勇者一行に一人、新たな仲間が加わったのである。その祝福として、リリア・ガーネットの隣にいるマグナスは、娘の成長を目の当たりにし、密かに涙を流していた。
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王城の二階に位置する広大な戦闘場。ここでは、王城に仕える者達が互いに研鑽し合い、更なる力を付けるべく設立された場所である。
事故を防ぐ為に戦闘場は予約制にしてある。
アヤミチ達三人は、前からここに予約を入れていた者に急用が出来た為、マグナスから是非使うように言われている。
「おぉぉすげぇぇぇええ!!」
かなりの広さのある戦闘場の中で、アヤミチは感嘆の声を上げる。声は部屋中に響き、アヤミチの声が遠くまで届いたことが分かる。
何故アヤミチはこんなにも興奮状態になっているのか。理由は簡単、アヤミチは今まさに、異世界ファンタジーを目の当たりにしているからだ。
アヤミチが目を輝かせながら見つめる先、リリアの手のひらからは炎が赤く燃えたぎっており、その高さはリリアの頭をゆうに越している。
「これが中級魔法。初級魔法よりか、威力は大きいだろ?」
リリアはそう言うと、絶え間なく炎が出続けている手を握ると、炎は一瞬にして消えていく。
握った拳を顔の前に持ってきて、リリアは口の端を上げて晴朗な笑みを浮かべる。その笑顔は、綺麗な顔が崩れるどころか、驚く程に整った形をしていて、むしろ顔の良さを引き立てているように見えた。
「...おまえ、やっぱ笑ってた方が可愛いな」
アヤミチは、自然と心の中の感想が口に出る。その様に、ルルドロスとリリアは二人見つめ合って動揺する。
少し経って、リリアは恥ずかしさで頬を紅く染め、アヤミチに両拳を何回も叩きつける。
一方、ルルドロスはその様子を微笑ましげに、穏やかな表情で見守っていた。
「痛っ、たくないけど魔法で燃やしてきそうだからやめてね」
アヤミチは、リリアからの猛攻に一瞬だけ目を瞑って眉間に皺を寄せるも、すぐに痛みを何も感じないことに気付き、リリアの攻撃を手で制しながらも朗らかな顔をする。
「えっと、夫婦円満のところ悪いんだけど、アヤミチ、1つ聞いてもいいかな?」
ルルドロスの火に油を注ぐ発言で、リリアは更に顔を赤らめるも、アヤミチはそれを無視してルルドロスの方に視線を送る。
「君はどこから来たんだい?魔法も知らないとは、田舎育ちなんてものじゃないぞ」
ルルドロスからのまさかの質問に、アヤミチは身体を強ばらせて警戒する。だが、すぐに落ち着いた表情になり、前々から用意していた答えを告げる。
「あー、実は王都の路地裏育ちでな....あの森に入ったのも、スライム倒して一攫千金狙ってたんだよ」
アヤミチは発言すると、ルルドロスは驚いた表情をして申し訳なさそうに頭を下げる。
「そ、そうだったのか....すまない、アヤミチ。野暮な質問だったね」
「んな事いちいち気にしねぇって。頭上げろよ、ルル」
頭を下げるルルドロスに、アヤミチは少し申し訳無さを感じつつ、ルルドロスに頭を上げさせる。
実は別世界から転生して来ました、なんて言ったら、頭がおかしい奴扱いされるに決まっている。例え信じて貰えたとしても、重要人物として王都で保護されたりしそうだ。どちらにしろ、転生...転移なのかは今はどうでもいいのだが、その事は話さないのが得策だろう。
仲間内にこの事実を打ち明けるのは、もっと仲間と一緒に過ごしてから、だ。
「そう、だね。これからは仲間として多くの時間を過ごしていくんだ。自分の過去も話せるようにならないとな」
ルルドロスの純粋無垢な発言に、アヤミチは胸に苦い痛みを感じる。どれだけ嘘を吐いても、申し訳なさと罪悪感が募っていくばかりだ。
「おいおい辛気臭いぞ!ほら、もっと魔法の説明してやるから、テンション上げてけ!」
アヤミチとルルドロス、両者それぞれが違った意味で苦々しい表情をしている中、リリアは二人の肩に両手を回し、二人分の頭を腕の中に抱える。
少し硬い素材の布が、アヤミチの首に当たり、間近に接近しているリリアから、シトラスのような匂いを鼻で感じる。
「クソ、なぜちびっ子なんだ...!!」
リリアの小さな身体を視界に入れ、アヤミチは悲しみに暮れながら小声で嘆く。だが、リリアから抱かれているこの状況に、悪い気は全くしなかった。むしろ──
「こ、こ、ろ、の声が漏れてんぞ.....!!!」
リリアは、先程とは違って怒りに頬を紅く染め上げ、握り拳に微かな炎をチラつかせる。
「美しいです美しいですリリア様様ですぅー!
こらルルドロス!何笑ってやがる!!そんなにリリアのちんちくりんが面白いか!」
アヤミチは、リリアの炎を見た瞬間に有り得ない速さで土下座を繰り返す。その際にルルドロスが顔を逸らして笑いを堪えようとしている様子を発見し、アヤミチは、ここぞとばかりにルルドロスにヘイトを向かせようとするも、それはまさに火に油を注ぐ言動だった。
アヤミチは、捕まったら即死の鬼ごっこをしている中で、リリアの凄まじい形相を見て、リリアの水平線が映り込んでいるような美しい瞳に、炎が宿ったと錯覚した。
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