第8話 天秤の結
王都の中心に位置する"王城イアーシーズ"。西洋風の異世界ならではの城で、城壁が白い壁なのが特徴的だ。夕陽が沈みかけ、いよいよ夜の時間帯になってきた頃合で、アヤミチとルルドロスは、ようやくこの城に着いたのだ。
城の門を、門番から不審な目で見られながらも通過し、王城の中に入る。城の中は、白と金で統一されており、かなり目が痛くなる光景だ。
カーペットを辿りながら先に進んでいくと、何やら大扉の前に辿り着く。その扉の前には、一人の男性が立っており、伸びた髭を触りながらルルドロスに話しかける。
「ほう、君がルルドロスか。噂に聞いていた通りの風貌で安心したよ」
男性は、ルルドロスに笑いかけ、人の良い笑顔を見せる。それから、ルルドロスの金魚のフンのアヤミチに一瞬だけ訝しげな表情を見せるも、すぐに片手を広げて挨拶をする。見たところ、50代程だろうか。
「やあ、君がアヤミチ君かな?」
「は、はいこんにちは!」
アヤミチは、男性の問いかけに声高らかにして答えるが、余計な挨拶の文言も加えてしまい、心の中で自分を戒める。
アヤミチの言葉に、ルルドロスと髭の伸びた男性は優しい笑顔になり、アヤミチは実家のような温かさを感じた。
「こんにちは、アヤミチ君。なに、そんなに畏まらないでくれ。少々、長く深い付き合いになるだろうからな」
その男性の言葉に、姿勢を正して何故か敬礼をしていたアヤミチは、苦笑いをして軽く返事をし、姿勢を少し崩す。
「アヤミチ。この人は【ハイナ・ヴィアンセ】。天秤の結の1人だ」
ルルドロスは、片手をハイナ、と呼ばれた男性に向けてアヤミチに紹介をする。アヤミチは、ハイナという単語を頭の中で何度も反響させ、力技で脳に記憶させる。
ルルドロスに手を向けられたハイナは、恥ずかしげに白髪の混じった後頭部を掻く。オールバックにしている髪型は、何処か大人の雰囲気を漂わせているが、彼の人柄も合わさって恐怖感などのマイナスな印象は一切生じなかった。
「すまない、ルルドロス君。本来なら私が自己紹介をするべきだろうに....」
ハイナは、何十歳も年下であろうルルドロスに頭を下げて謝罪する。ハイナはほんの少し眉を下げ、申し訳なさそうに沈んだ表情を浮かべる。
「頭を上げてください、ハイナ様。それよりも、早く謁見を始めましょう」
ルルドロスは、困り顔でハイナに頭を上げるように言うと、ハイナは思ったよりも早く顔を上げ、思い出したように何かをボソボソと呟きながら、どこかへ行ってしまった。
「....ハイナさん、良い人そうだな」
「ちょっとだけ、変な所もあるけどね」
アヤミチが早足で遠のいていくハイナに視線をやりながら、ルルドロスにそう言うと、ルルドロスは苦笑をして割と酷い言いようをする。
アヤミチは、キラキラと光輝く内装を見続けたことによって、刺激を与えられた目を袖で擦っているとルルドロスがアヤミチに向けて口を開く。
「これから、天秤の結との謁見が始まる。勇者になるために、心構えを問い質す謁見だ。」
アヤミチは、小さいゴミが入った目を人差し指で擦りながら、返事はせずに頭を縦に振る。
「天秤の結は2人の元市民によって構成されている、王族の代わりに務めを果たす会だ。謁見では、少し厳しい言い方をされるとは思うけど──」
ルルドロスは、意味深げに言葉を区切り、アヤミチはゴミが入って少し潤った目でルルドロスの顔をチラッと見る。ルルドロスは、爽やかな笑顔を浮かべており、緑色の綺麗な瞳にはアヤミチが映し出されていた。
「アヤミチならきっと大丈夫だ!」
ルルドロスの説明に、少し不安が頭の中に残るアヤミチだが、突然ルルドロスがアヤミチの肩に手を置いてガッツポーズをしだし、彼の爽やかな笑顔を見ていると、アヤミチの頭からは不思議と不安な気持ちがどんどん消えていくように感じた。
「何を根拠に...」
「だって、君は僕を口説いたんだから。これぐらい、君には余裕だろう?」
アヤミチは、段々湧き上がってきた気恥しさから、ルルドロスから目を逸らして腕を組んで棒立ちになる。
ルルドロスは、してやったりのニヤついた表情を浮かべ、すっかり気分上々のようだ。人は、一日で出会った人間にここまで心を解されてしまうのか。アヤミチは、深く嘆息をしてルルドロスの背中を手のひらで思いっきり、やり返すように叩いた。
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