第2話 唐突

「城坂...先輩」


「やっほ。過道くん」


 最悪のフラグが成り立ってしまった事に、勇止はとりあえず手ぐしを止める。最早勇止の思考は完全に停止しており、ここで裸になれ、と言われても何の抵抗もなく服を脱ぎ捨ててしまうだろう。

 勿論、城坂がそんな事を命令するとは思わないが。


「一緒に帰る前にさ、ちょっと寄ってかない?」


 城坂は、公園の内側を指差し、勇止に優しく微笑みかける。


「は、はい.....」


 勇止は、一切の抵抗をせずに、城坂の後ろを着いて歩く。城坂のクリーム色の長い髪が右往左往している様子を眺め、勇止は小さな幸せを感じる。


 公園をしばらく歩くと、城坂は二人程座れるベンチに腰を下ろす。その動作に見惚れていた勇止は、少し遅れてから何も考えずにベンチに腰を下ろす。


 そう。城坂の隣に、腰を下ろした。


(───ッッッッ!!!!!)


 段々と考える力が戻ってきた勇止は、顔を急激に赤らめる。その様子に、城坂は耳にかかる髪を掻き分けて勇止の顔を覗き込む。


「おぉ....ボンって爆発しそうな顔だね....」


 何よりも今突いて欲しくないところを突かれ、勇止は更に顔を赤らめ、いよいよ本当に顔が爆発してしまいそうである。

 そして、しばらくの間、二人の間に沈黙の空気が流れる。だが、勇止には気まずいなどと考えている暇は無かった。


 風を伝って勇止の鼻に入り込む女子高生の甘い香り、チラッと城坂の様子を伺った時に見える綺麗な横顔、異常なほど白い肌。既に、勇止のライフはゼロを通り越していた。


「きょ、今日はどういった理由で....わたくしめをお呼びしたのでしょうか...」


「ふふっ、変な口調だね。そうだなぁ、暇だったから?」


「さ、左様で....」


 勇止は、何とか振り絞った勇気で自ら話題を振る。しかし、何故か妙な口調になってしまい、勇止はその恥ずかしさからか、軽い目眩を覚える。

 そして、会話は途切れ、再び沈黙の時間が流れる。


「.....ごめん嘘。今日、過道くんを呼んだのはね、」


 城坂の長い髪が風に煽られ、口元を隠すように唇に髪がかかる。その一連の流れで、またも勇止の心拍数は上がっていく。

 勇止の心拍数が上がるにつれ、段々と視界が白く白く歪んでいく。だが、何故か一人の男子高校生の脳はその異常現象を見逃し、勇止はこの異変に気付くことが出来ずにいた。




「ちょっと、過道くんのことが気になってたから...なの」











 その言葉を理解した瞬間に、勇止の視界は完全に白く染まり、城坂の姿が見えなくなる。城坂が見えなくなった頃にようやく異変に気付き、勇止は目を見開く。


 だが、その時にはもう遅かった。


(───え?あれ?俺、死ぬの?)


 横から、勇止を案じているような声が耳を通り抜ける。不思議な安堵感、勇止はその声を最後に聞けるならもう死んでもいいとさえ思った。


(い、いやいや良くねぇよ!?)


 一人の男子高校生の死因が"過剰な愛養分の摂取によるキュン死"。これ以上にダサい死因が、未だかつてあっただろうか。


 いくら学校一の美女だとしても、流石に死因に直接関わってくるのは無法というものだろう。それに、家族や友人が勇止の死因を聞いたらどう思うだろうか。

 医者は一体どう説明するのだろうか。


(嘘だろ....え?てか、俺の事気になってたって!?)


 今更、城坂の発言を理解し、またも目を見開く。明らかな体の異常で霞んでしまったが、城坂の発言も中々の異常事態だ。


(クソっ!なんか嬉しいけど嬉しくねぇ!)


 死に際に、そう心の中で叫び、城坂ではなく自身の恋愛耐性の無さを恨む。





そこで、過道勇止の意識は完全に無くなった。

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