第2話


  掌編・『異人たちとの夏休み』


 「男おいどん」こと大山将太は、サルマタケを、炒めて食べて、腹を壊して、寝込んでいた。


 関東底辺大学の二年で、3浪なので、23歳だった。夏休みなので、寝込んでいるのに支障はないが、アルバイトに行けないのでこのままだと飢え死にしかねないなあ?とか世を儚んでいた。


 サルマタケには幻覚作用があり、テングタケとかワライタケとかそういう類の毒キノコの類種だったのかもしれない…夢うつつのまま、将太は幻覚に魘されていた。


 四畳半の下宿は月の家賃が1万円で、仕送りは3万円。アルバイトを必死で頑張ってもせいぜい2万円。日割りにして、千円ちょっと。毎月ギリギリで、思い余って見るからに毒々しい赤とオレンジが斑のサルマタケを食ってしまった。


 「うーん。うーん。いてえよお。胃薬なんてあるわけないし…買いに行くのも無理だ。医者も無理だ。電話は止まってるし、大家はごうつくばりの爺だし…」


「うーん。タスケテクレ。神様。仏様。まだ死にたくない。一週間後には仕送りが届く。なんとかそれまで生き延びれば…ああ、気持ち悪い。なんとかしてくれえ」


 ぐにゃぐにゃした、こんにゃくのお化けのような妙な幻覚の怪物の舌に将太は舐め回されていた。メスカリンという神経中枢に働く物質が毒キノコにはあるとか?だいたい図書館くらいしか居場所がないので、将太には妙にいろんな雑学があるのだった。


 八方ふさがりで、苦痛の極み。こういう時に、なにか麻酔効果のある脳内モルヒネとかいうものが分泌したりするとか聞いたことがあった。ランニングハイとかの原因になる。そのせいか、なんだか軽い酩酊感のようなものが、じわじわ効いてくるような自覚があった。


「ん?ん? ほら、ベータエンドルフィン?そういうのの効果かな?痛みが軽くなってきたぞ!うーむ、人体の奇跡だ!神の恩寵だ!」


 将太の脳内には、サルマタケの幻覚物質と、脳内モルヒネが混在している状態だった。かなり特殊な状況であり、自然状況はもとより、人工的に作り出そうとしても困難な、Chemistry「実験」の温床が脳内に生じていた。


 次の瞬間、前代未聞、空前絶後の不思議な化学反応が、千載一遇、一期一会、唯一無二、卒啄同時に、爆発的にバーストした!


 …将太の前には、999と書かれた列車に乗っている、あの謎の美女「メーテル」が膝を崩して端然と座っていた。幻覚なのだ、わかっているつもりだったが、その美女はあまりにリアルで、生きているとしか思えない質感があった。が、二次元のキャラクターのあのメーテルなのはどうしようもなく瞭然としていた。 


「!」


<続く>

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