第5話 セミとアリ

 夏。蝉の声で夏を感じる。

「あ、これが噂のセミ爆弾ってやつ」

 私はこのアホ暑い令和の夏に、飲み物の自販機を求めて歩いていた。あの人が私に甘い蜜ばかり与えるからだ。

「そうだね、近づくと爆発するかも」

 そして、さも当然という感じに居るこの人。

「それで? どこへ行こうというのかね」

「ふいに、冷えたサイダーが飲みたくなって」

「そういう、そらさんは何用でして?」

「私はコンビニに、何かつまめるものが欲しくてね」

 同じ方向、今日ぐらいは悪くないかな。


「ところで、アリとキリギリスという寓話をご存じかね」

「たしか働き者のアリと貯蓄を怠ったキリギリスの話ですよね」

「これ、元々はセミとアリだったんだって~」

「ただ、ヨーロッパ北部では、セミが馴染みの無い昆虫だったからキリギリスになったっていう話」

「ふぇ~ 初耳ですね」

「たとえば日本なら福沢諭吉が翻訳した『童蒙をしへ草』では」

「キリギリスはイナゴになってるようだよ?」


「どれも内容は似てるけどねっ」

「だから……」

「だから?」

「こんな暑い日に外に出なくて済むように備蓄しよ!」

「ふむ、そりゃいいですね!?」

 結局、一緒に歩いて、サイダーとアイスを奢ってもらった。帰りも、くだらない話をして帰る。


 たまには、こういうのも悪くないかも。


*セミ爆弾は脚でみわけがつくようです、脚が開いていると爆発するかもなので気を付けてください。(1敗)


 閉じている場合でも稀に爆発します。

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