第4話 疑似アップルパイ

「こうやって一緒にテレビみるのって久しぶりかも?」

「この前、勝手にきた時みてましたよ、そらさん」

「それは、それ! これは、これなの」

 なぜ、私がこの自由人と一緒にテレビを眺めているのか。それは、昨日の出来事。

「明日、遊びに行ってもいい?」

「珍しい、明日は雨か雪が降りますね」

 いつも呼ばなくても勝手に来る、この人がアポを取ってきたからである。

「ほら、さやちゃんは観たい映画ある?」

 ま、実際のところはアマプラに便乗しにきただけだったけど。

「じゃあ、私はこれで」

「Oh,really? おもいっきりホラー系です、当てつけか~」

「当てつけじゃないよ、もともと気になってたやつ」

 半分嘘で、半分ほんと。

「久々に映画観るのに、ジュースが無いのは寂しくありませんか」

「うむ、そうかも」

「ちょっと待って、すぐ買ってくる」

 そういって数秒もせずに飛び出して、すぐに戻ってきた。成し遂げられる人物って訳ね。そこは気に入ったわ。


「作るから待ってて~」

 戻ってきて、第一声がこれじゃなきゃね。いつも主語が足りない。

「何を作るんですか~」

「モックアップルパイ~」

 話にならん、私はキッチンに向かう。

「それ、何ですか」

「パイ生地だけど?」

 そりゃ見ればわかる。聞きたいのはそっちじゃない。

「その、モックアップルパイとは?」

「ふふん、発祥は19世紀アメリカ、そのままの意味」

「疑似、りんごを使わないアップルパイってわけ」

 ほうリンゴ抜きアップルパイですか、とは、ならない。


「作り方は簡単、レモンでシロップを作って」

「パイ生地に荒く砕いたリッツ上シロップ」

「その上にバターを気前よく乗せて閉じて焼く、おわり!」

「うちにレモンなどあるはずが……」

 そんな洒落たものを常備している家ではない。

「レモン果汁」

「ふぇ?」

「有り合わせだからレモン果汁使いましたっ」


 焼けたパイはシナモンの香りがして無難においしかった。食べるのに集中していたせいで映画の冒頭が頭に入らなかったのは、また別の話。


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