第3話 夢みるチーズ

 ピンポーン! なんだろ、届け物かな?

「こんにちは~」

「うわっ、そらさん」

 夏休み初日から何故、この人の顔を拝まなければならないのか。


「さやちゃん、今日から夏休みでしょ?」

「夏バテしてないか、確認しにきたよ」

「心配されるまでもなく元気です!」

 わかったら帰ってくれないかなぁ…… そう思うけど、わざわざ私に会いに来るということは。

「ところで今日、お昼食べた?」

「いえ、まだですけど」

「ふふん、良いのを持ってきたんだぁ~」

「じゃあ、お邪魔しまーす」

「それはまた勝手な」

 つきあいが長いとは言え、ここまで勝手だと扱いに困る。

「……冷えたサイダーもあるよ」

 ボソッと、それは。まぁ許してやらんこともない。


「まぁ、すぐに作るから待ってて」

 入るなりキッチンへ直行して行った、そらさんを追う。

「んん~? 待ってていいのに」

「変なもの食べさせられたら困りますから」

「そんなことしたら親御さんに合わせる顔ないよ」

「この丸いのは?」

 私はアルファベットが記載された円形のものを指さす。

「それは今日の主役! スティルトンチーズ」

「と、いいますと?」

「これはねぇ、世界三大ブルーチーズの一つなんだよ」

フランスのロックフォール、イタリアのゴルゴンゾーラ、イギリスのスティルトン」

「由緒あるチーズなの、変なものではないよ」

「たしかに、ゴルゴンゾーラは聞いたことあるかも」

「理解できたかね? わかったら向こうで待っててね」

「見てても面白くないよ」

 私は言われた通りにすることにした。それにしても今日のそらさんは石鹸のいい香りがする。気遣うところを間違えているのでは?


「お待たせしました、こちら本日のランチでございます」

「サンドイッチ?」

「そう! 食パンにハムとレタスとチーズ」

「あんまりガッツリとした肉料理とか出しても嫌かな、と」

「では、いただきます」

「どうぞ~」

 まずは一口。悪くはない、悪くはないのだけれど。

「これは、チーズだっ」

「うむ、たしかにチーズ」

 でも、なんやかんや美味しいので全部食べたのだが。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま、残りがあるけど暫くはいらないかも」

「そして、食べたね、このチーズをッ!」

「やっぱり何かあるんですね……」

 そうだと思ってた。薄々、気づいてはいたけど。

「ヌフフ、このスティルトンチーズは、ね」

「食べると、奇妙な夢をみる確率が高くなるらしい!」

「奇妙な夢?」

「と、言うよりは実際みた夢を忘れにくくなるみたい」

「まぁ、チーズに含まれるビタミンB6の効果らしいけど個人差はあるだろうね」

「そのチーズを私に食べさせるのか」

 私は全力で呆れてみせた。


「また明日、どんな夢みたか教えてね」

 そして颯爽と片付けして、帰っていった。そらさんは、勝手でマイペースな人だけど、嫌いにはなりきれないな。

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