第11話

 午後、辰也と辰美は風助達を肩に乗せて街を歩いていた。風助達の姿が道行く人々の興味を引いたのもそうだったが、辰也の隣を歩く辰美の姿はより人々の目を惹いていた。



「な、なんだかスゴく見られてるね」

「まあ気にしなくていいんじゃない? 気にするだけ無駄よ」

「そ、そうだね」



 隣を歩く辰美をチラリと見ながら辰也は答える。かけていたメガネを外した事で涼やかな目元や通った鼻筋が際立つキリッとした顔立ちになり、二つ結びにしていた髪はストレートになってサラサラと風になびいていた。堂々と歩く姿は男女関係無く見惚れさせており、中には声をかけたがっている者もいた。



「ほー、どいつもこいつも辰美に釘付けになってるなあ。まあ辰美はべっぴんさんだしな」

「それはどうも。けれど、ただ遠巻きに見て声もかけてこないような人に興味はないの。もっとも、声をかけてきたところで辰也君がいるから、どんなお誘いも断るのだけど」

「だってよ、辰也。よかったじゃないか、こんな美人からそう言われて」

「あはは……僕なんかが辰美ちゃんみたいに綺麗な人の隣にいてもいいのかなとは思うけどね」

「いいに決まっているわ。辰也君はとても頼もしいから」

「辰美ちゃん……」



 辰美が微笑み、辰也が照れながらも嬉しそうに笑う姿を風助と風音が微笑ましそうに見る中、風太は首を傾げていた。



「んー? 辰也の奴、嬉しいのはわかるとして、なんで照れてんだ?」

「風太兄さんにはまだわからない話ですよ。さて、お話をしながらお出掛けをするという事にしましたが、まずは何をお話しましょうか?」

「そうだね……それなら鎌鼬を含めた妖怪について聞きたいな」

「そうね。鎌鼬が実在するなら他の妖怪もいるだろうし」

「妖怪について、か……俺達もそんなに多く話せるわけじゃないが、昔から人間達の生活の中に混じって生活していたのは間違いないな。その辺の事はたしか風音達が話してたんだよな?」



 辰也は頷く。



「うん、そうだね」

「今でこそ人間に化けてその中に混じって生活したり中には自分達だけの住みかを求めて人間の前から姿を消したりした奴もいるようだが、俺達はそのどちらとも言えない位置にはいるな」

「俺達は人間には化けられないし、今もこうして人間達の前に姿を見せてるからな」

「そして俺達のような妖怪は妖力を持ってる。妖力ってのは……うーん、説明が難しいな。風音、なんかいい説明はないか?」



 風音は少し考えた後に辰也達を見回した。



「少し違うかもしれませんが、人間達の中には超能力と呼ばれる不思議な力を持った人がいるそうです。物を浮かせたり炎を燃やしたりなど様々ですし、近いのかなとは思います」

「私もそこまで詳しいわけではないけれど、修行を重ねたお坊さん達は法力と呼ばれる物を、幽霊などを視られる人達の中には霊力と呼ばれる物を持つ人もいるそうね」

「まあ、そんな感じの力だと思ってくれたらいいな」

「うん、わかった」

「まあ、そんな感じで俺達妖怪は色々な形で今も生きてる。だから、それは忘れずに人間達も暮らしてほしいもんだな。人間達には難しい話かもしれねえけどな」



 風助は少し哀しそうに笑う。その姿から人間達に対しての諦めのような物を感じ、辰也と辰美は顔を見合わせていると、風助はニッと笑った。



「まあお前達だけでもそれをわかっていてくれたら俺は満足だ。ひとまず妖怪についてはこんなところにするとして、次は何について話したもんだろうな」

「そうだね……それなら辰美ちゃんの事について聞いてみたいな」

「私?」



 辰美が首を傾げると、辰也は微笑みながら頷く。



「うん。ご両親が社長さんをしているのは聞いたけれど、どんな会社の社長さんなのかなって」

「父はアパレルで母はコスメ用品よ。父の方はカジュアルな物からフォーマルな物、更には和服やドレスまで幅広く手掛けていて、私が辰也君達と出会った時に着ていた服も実は父の会社で販売している服なの」

「ほーん、どうりでなんか上質そうなもんを着てると思ったぜ。まだ家族全員で暮らしていた時、知り合いに服屋に勤めてる妖怪がいて、遊びに来る度に扱ってる生地やら自分で作ってる服やらを見せに来てたから、それなりにわかるようになったんだ」

「そうだったのね。そして母の会社は基本的には女性用が多いけど、男性用のコスメ用品も開発はしているし、それを使ってドラマやCMに出ている俳優も少なくないそうよ」

「それじゃあ辰美ちゃんのご両親の会社は本当に有名なところばかりなんだね」

「そういうことになるわね。両親も将来は私にも会社を興して社長として働いてほしいと言っていたけれど、今の私にその気はないの。そういう生活もあるのだろうけど、そのまま言う事を聞いてばかりなんていや。私は私の進みたい道を進む。そう決めたから」

「そっか。それなら僕はそれを応援するよ。辰美ちゃんの家族としてね」

「辰也君……」



 二人は笑い合う。そしてその様子を風助が満足そうな顔で見ていたその時だった。



「おう、風祭じゃねぇか」

「あ……」



 辰也達の目の前にはニヤニヤと笑う金次達が立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カマイタチと女の子を拾ったので家族になる 九戸政景 @2012712

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ