第10話

 翌朝、辰也達は朝食を食べていたが、美味しそうに食べる辰美の姿を辰也は顔を赤くしながら見ており、その視線に気づいた辰美は小さくため息をついた。



「辰也君、昨夜の件は気にしなくていいから。あれは事故のようなものだから」

「う、うん……」



 答える辰也の顔は未だ赤く、その姿に風太は首を傾げる。



「兄貴、辰也の奴はなんで顔をリンゴみたいにしてるんだ?」

「おおよそ、辰美が着替えてるとこでも見たんだろ。んで、その光景を見慣れてないからずっと照れてんだ」

「ふ、風助!」

「それも別に悪い事じゃねえが、一緒の家に住む以上、また同じような事だって起きかねない。いつまでも照れてても仕方ねえぜ?」

「それは……まあ」

「まあ、べっぴんさんが着替えてるとこ見られたんだ。いわゆるラッキースケベって奴として喜んでいいんじゃないか?」

「もう風助!」



 辰也が更に顔を赤くし、辰美も照れた様子でうっすら顔を赤くする中、風音は小さくため息をついた。



「まあそれはさておき、今日はどうしましょうか。昨晩注文した衣服等は今日の内に届くかと思いますが、食材などは昨日購入したもので十分なんですよね?」

「そうだね。だから、何かやりたい事は無いかなと思って考えてはみたんだけど、中々思い付かなくて……」

「そういや俺もだな……」

「俺も外を飛んできたり昼寝したりするくらいでいいかなって……」

「私も特にやる事は決めていなかったですね……」

「私なんてこうやって拾ってもらえるとすら考えてなかったから、やりたい事なんて考える余裕もなかったわね……」



 五人は困った様子で顔を見合わせる。



「やりたい事ってたぶん普通に出てくるものだよね?」

「そうだと思うんだが、それらしいのがまったく出てこないんだよな」

「やっぱり趣味ってのを見つけた方がいいのか?」

「ですが、趣味とはどう見つけたらいいのでしょうか……辰美さんはご趣味はありますか?」

「これといってはないかしらね……習い事はさせられていたけれど、趣味を見つけたりそれをやったりするだけの時間もなかったから」



 五人は揃って頭を悩ませる。



「うーん、本当は共同生活をする上での決まり事を決めるべきなんだけど、その後にやりたい事がないのも困りものだね」

「とりあえず午前は決まり事を決めるとしても、午後に何もしないってのもなあ……」

「まあ、寝たり飯食ったりする以外が暇になるのもよくはねえか」

「そうですね。では、辰美さんが着る服が届いた後に五人でお出掛けするのはどうでしょうか?」

「外出?」



 風音は静かに頷く。



「そうです。そもそも私達は出会ってまだ一日二日の仲です。私達三兄弟はまだしも、辰也さんと辰美さんの事はまだしっかりと知りませんし、辰也さん達も私達の事をしっかりとは知りません。それならば、お出掛けをしながら自分達が興味のある物を見つけて、それについてお話をしてみるのもいいと思うんです」

「なるほどなあ……たしかにそうすれば辰也と辰美の事もわかっていくし、趣味になりそうな物もみつかるかもしれないな」

「そういう事です。辰也さんと辰美さんはどうですか?」



 辰也と辰美は顔を見合わせると揃って頷いた。



「うん、僕もいいと思うよ。家事をのんびりしたり予習復習をしたりするくらいしかやる事もなかったし、みんなと出掛けられるなら嬉しいからね」

「私もそれがいいわ。辰也君は学校に行くだろうから家には私とあなた達だけになるとは思うし、何も知らないまま過ごすよりは色々知っておいた方がいいもの」

「学校……そういえば、辰美ちゃんって学校は?」

「……義務教育を終えた後は行ってない。家に家庭教師を招いて勉強していたから。だから、ここでも一人で勉強しているつもりだけど、もしも辰也君が何かわからないところがあったら教えてもいいわよ?」

「ほんと? うん、その時は言うけど、せっかくだから帰ってきた後は復習も手伝ってもらいたいな。誰かと一緒に勉強する機会なんてこれまでなかったから」

「学校にダチ公はいないのか?」



 風太の問いかけに辰也は哀しそうに首を振る。



「こんな家だからか小学校の頃から少し特殊な子として見られてきたんだ。だから、声をかけてくる子もほとんどがお金目当てで、その内に学校では誰とも関わらなくていいやと思っちゃったんだよね。その結果、イジメられても誰も助けてくれなくはなったけど」

「イジメ? 辰也君、イジメに遭っているの?」

「あ、うん。まあでも、ちゃんと抵抗はしているし、お金を盗られたとかはないから」

「んで、そのイジメをやってる奴らに俺達がちょっかいをかけちまって、危うく殺されかけたところを辰也が助けてくれたから今もこうして生きてるんだ。まあ、それが俺達の出会いだな」

「なるほど……」



 辰美が顎に手を当てる中、辰也は哀しそうな笑みを浮かべた。



「でも、その内飽きるとは思うよ。小学校や中学校でも似たような事はあったけど、みんな飽きて別の子をターゲットにし始めたしね」

「けど、辛い事に変わりはないでしょう?」

「まあね。いま遭っているイジメはこれまでよりも酷いものだから、こんな目に遭う僕なんて死んだ方がいいのかなと思ってたし」

「辰也君……」

「でも、みんなに出会ったからには簡単には死んでいられないよ。みんなとはこれから楽しい毎日を過ごしていきたいと思ってるから」

「へへ、だな。うっし、そうと決まればしっかりと朝飯を食って元気だしてくぞ!」



 風助の言葉に四人は頷いた後、色々な話をしながら再び朝食を食べ始めた。

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