第9話

『ごちそうさまでした』



 辰也達は声を揃えて言いながら手を合わせた。そして風太が満足そうに寝転がりながら腹を撫でてケプッとゲップをし、その姿に風音が呆れたような顔をする中、辰也が後片付けを始めようとすると、辰美も椅子から立ち上がった。



「私も手伝うわ。お皿洗いとか……やったことはないけれど」

「うん、ありがとう。でも、今日のところは僕がやるよ。辰美ちゃんは風音と一緒に今後着る服とか身の回り品を準備する方に時間を使って」

「辰也君……」

「明日からは色々手伝ってもらうから今日のところはゆっくりしてて。ね?」

「……わかったわ。たしかにそっちも重要だものね」



 辰美が微笑み、辰也が同じように微笑むと、辰也は風音に話しかけた。



「風音、パソコンを使って辰美ちゃんの服とか身の回り品の注文をしてきてもらっていいかな? パソコンには特にパスワードはかけてないし、カード支払いが出来るようにはしてるから色々買っていいよ」

「ですが、私はそのパソコンというものを触った事がないのでわかりませんよ?」

「操作は私がするから、風音はこういう服が似合いそうというのを言って欲しいわ。これまで衣服は用意されてきた物ばかりを着てきたから、誰かと一緒に服を選ぶというのはしたことがないの」

「そういう事であれば喜んで。辰也さん、お風呂も沸かしてきますね」

「うん。ウチのお風呂はフルオートだからボタンを押せばお湯張りとかをしてくれるからね」

「わかりました。では行きましょうか、辰美さん」

「ええ」



 リビングから辰美と風音が出ていくと、辰也は食器をシンクへと運び、洗い物を始めた。そして鼻唄を歌いながら上機嫌で洗っていると、風助が辰也の肩に留まった。



「辰也、家族が増えたのはやっぱり嬉しいか?」

「うん。増えたというか、“出来た”だけどね」

「……まあ、辰也的にはそうか。ところで、明日も学校は休みなのか?」

「うん、明日は日曜日だしね。でも、明日は何しようか……」

「何も予定はないのか?」

「家事をする以外は休み明けの予習するしか考えてなかったから。でも、風助達が来てくれたから何か他の事もしたいな」

「だなあ……風太、お前は何かしたい事はないか?」



 風助が呼び掛けると、風太はむくりと起き上がる。



「したい事か? 俺は特にはねえなあ……そもそも俺達は住みかを追われたからひたすら三匹で色々なところを旅していたわけだし、したい事って言われてもあんまりピンと来ないな」

「たしかに旅してる間は、何かをしたいと思って行動した事はあんまりないな。強いて言えば、その日の寝床や食べ物を探してただけだしな」

「ここに住む事にしたから、そのどちらもする必要はなくなったしね」

「そうだな……衣食住が確保出来たわけだし、俺達も何か趣味って奴を見つけてもいいのかねえ」

「それもいいと思うよ。趣味がない僕が言えた事じゃないけど」

「んじゃあ俺達の当面の目標は、自分達の趣味を見つける事だな」

「だね」



 風助と辰也が笑い合い、その様子を風太が少し安心したように見ていた時、そこに辰美と風音が姿を見せた。



「辰也君」

「辰美ちゃん、風音、いい服は見つかった?」

「ええ、おかげさまで」

「明日には届くようです。それでお湯張りも済んだようなのでお風呂に入ってこようかと」

「わかった。でも、着替えはどうしようか……」

「そうだな……服は今日だけ辰也のを貸せばいいんじゃないか?」

「僕の?」



 辰也の疑問に風助が頷く。



「ああ。少しブカブカにはなるだろうが、一日くらいはいいだろ」

「そうね。辰也君、貸してもらってもいいかしら?」

「うん、もちろん。後でタオルと一緒に持ってくね」

「ありがとう。それじゃあ行きましょうか、風音」

「はい」



 そして辰美と風音がリビングから出ていくと、風太はその姿を見ながら少し驚いた顔をした。



「アイツら、この短時間ですっかり仲良くなったな」

「うん、そうだね。あ、そうだ」

「どうした、辰也?」

「シャンプーとかボディーソープがそろそろなくなると思って。詰め替えを渡してくるね」

「ああ」



 辰也はリビングから出ると、シャンプーとボディーソープの詰め替えを手に取った。そしてそのまま脱衣所へ向かった。



「二人とも、詰め替えを……」



 辰也の目に入ってきたのは、服を脱ぎ、下着姿になっていた辰美だった。



「あ、あ……」

「た、辰也君……」

「ご、ごめん! そろそろボディーソープとかが無くなるかなと思って詰め替えを持ってきただけだから!」

「そ、それはありがとう……」



 辰美が詰め替えを受け取ると、辰也は顔を赤くしながら目を背けた。



「そ、それじゃ……!」

「あ、たつ──」



 辰美の制止を振り切り、辰也は急いでリビングに戻った。そして顔を赤くしたままで荒い息をしていると、その様子を見た風太は不思議そうな顔をした。



「どうした、辰也。その辺でも走ってきたのか?」

「な、なんでもないから!」

「お、おう……?」



 風太がわけがわからないといった顔をする中、風助は察した様子でクスクスと笑った。そして辰也は再び洗い物を始めたが、その顔は赤いままだった。

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