第5話

 翌朝、風太と風音は辰也が用意した朝食をリビングで食べていた。



「あの辰也って奴、結構弱っちそうだが、飯作る腕だけはたしかだな」

「作っていただいているのに失礼ですよ、風太兄さん。ですが、本当に美味しいですよね。これもお一人で過ごしてきたからなのでしょうか」

「かもなあ。にしても、アイツ遅いな。まだ寝てる風助兄貴の様子を見に行くって言って部屋に戻ったっきり戻ってこねぇぞ?」

「そうですね。何もないといいんですが……」



 風太と風音が話していたその時、辰也がリビングへと戻ってきた。しかし、その表情はとても暗く、両手には目を瞑ったままで横たわる風助が乗っていた。



「…………」

「おう、戻ってき……風助兄貴?」

「風助兄さん……あの、まさか風助兄さんは……」



 辰也は目を伏せたままで首を横に振る。そして風太と風音が愕然とする中、辰也はテーブルに近づくと、横たわる風助を静かにテーブルに載せた。



「おい、嘘だろ……」

「兄さん……兄さん!」

「やっぱダメだったってのかよ……! くそお、くおぉっ!」



 風助を前に風太と風音は涙を流す。その姿を辰也は静かに見ており、口をつぐんだままだった。そして風助を前にしながら風太と風音が泣き崩れていたその時だった。



「……ったく、いつまで泣き虫なんだよ。お前達は」

「……え?」

「え……」



 風太と風音は顔を上げる。目の前では風助が風太と風音を見ながら呆れたような顔をしていた。



「あに、き……」

「兄さん……」

「お前達も立派な鎌鼬なんだぜ? いつまでも俺頼りじゃこま──」

「兄貴!」

「兄さん!」



 風太と風音は風助に抱きつく。そんな二匹の姿に風助は一瞬驚いたものの、すぐに優しい顔をしながら二匹を抱き締めた。



「心配かけたな、お前達」

「兄貴、本当にすまねえ! 俺のせいで兄貴が……!」

「俺だって結果的に考えに乗ったんだ。お前のせいじゃねえ、考えの足りてなかった俺のせいだ。風音、お前にも不安な思いをさせてすまなかったな」

「いいんです、兄さんさえ生きていれば……!」



 風音が涙混じりに言い、その姿を辰也が静かに見守っていると、風助は辰也に視線を向けた。



「お前もすまなかったな。俺の考えを手伝ってくれて」

「ううん、いいよ。自分が死んだ場合の弟と妹の反応が見たいから手伝ってくれてお願いされたわけだし、このくらいは平気だよ。予想通りだった?」

「まあな。けど、やっぱり心配してもらえるってのは嬉しいもんだ。家族ってのはやっぱりいいもんだぜ、辰也」

「……そっか」



 辰也が少し哀しそうな笑みを浮かべる中、風太は風助の腕を嬉しそうに引いた。



「兄貴! こいつの飯は結構うめぇんだ! 兄貴も食おうぜ!」

「だな。昨日は食いっぱぐれちまったから腹は減ってるんだ。辰也、頼んでいいかい?」

「うん、任せて。それじゃあ僕も食べ始めようかな」



 辰也が自分と風助の分の朝食を運んできたあと、四人は再び朝食を食べ始めた。



「……おっ、たしかに美味いな。こんなに美味い飯を食ったのは初めてだ」

「それはよかった。まだまだあるからたくさん食べてね」

「もしかして俺達がいるからか?」

「うん。まあそんなに何度も料理するよりも少し多めに作り置きしておいたほうがいいし、普段から少し多めには作ってるかな」

「節約的な感じか。中々考えられてるんだな」

「お金は置いていってもらってるけど、食材以外にもお金はかかるから、それを考えるとやっぱり無駄遣いは出来ないよ。それに、貯金もしておきたいし」

「辰也さんは本当にしっかりとした方ですね。風太兄さんにも見習ってほしいです」

「風音、お前なあ!」



 風音の言葉に風太が怒りを見せる中、風助は小さくため息をついた。



「お前達はまったく……すまねぇな、辰也。コイツらはいつもこうなんだ」

「ううん、いいよ。賑やかなのは悪くないから」

「いつも一人だからか?」

「うん……前に帰ってきたのだって学校で面談がある時だったし、その時だってすぐにどこかに行っちゃった。だから、一緒にご飯を食べたのは……何年も前じゃないかな」

「そうなのか……」

「寂しさがないわけじゃないけど、もう慣れちゃったよ。僕の事をあの人達は家族とは思ってないんだろうし、それなら僕だって家族とは思わない。ただ家にお金を置いていくだけの人達だよ、あんなのは」



 辰也の目はとても暗く冷たい物だった。その深海を思わせる目に風太と風音は震え上がり、風助は腕を組んだ。



「辰也、お前は家族はほしいのか?」

「家族? うーん……まあ欲しくないわけではないかな。今みたいに誰かと一緒にご飯を食べたり話をしたりするのはいいと思うし、いるならいいかなとは思うよ」

「それはどんな奴でもいいのか? 一緒に飯を食べたり話をしたりする奴であれば」

「まあ……そうなるのかな? 性格面とかは後で擦り合わせをすればいいし、重要なのはその点かも」

「そうか……」



 風太や風音、そして辰也が不思議そうに見る中、風助は真剣な顔で辰也に話しかけた。



「辰也、俺達の兄弟になってくれねえか?」

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