第2話

「な、なんだろ……あのイタチ。すごく爪が鋭そうだけど……」



 イタチの姿に辰也がびくびくする中、イジメっ子の一人が辰也に近づいた。



「なんだ、風祭じゃないか。おとなしく金でも持ってきたのか?」

塚目つかめ君……」



 目の前に立つ塚目金次きんじを前に辰也がたじろぐ。金次はニヤつきながら辰也を見ており、他のイジメっ子達もイタチ達から離れ、辰也に近づき始めた。



「お、おい! ソイツは関係ないだろ!」

「兄貴! 今の内に逃げるぞ! アイツに人間達が食いついてる間に!」

「バカやろう! 関係ねぇ奴を巻き込んでんのに逃げられるわけがねぇ!」

「で、ですが……」



 傷ついたイタチは二匹のイタチからの心配そうな視線を浴びながらヨロヨロと辰也達に近づいた。



「おい! お前達が痛めつけたいのは俺だろ! ソイツは関係な──」

「うるせえな、獣風情がよ!」



 金次は迷うことなくイタチを蹴り飛ばす。その光景に二匹のイタチと辰也が息を飲む中、金次は転がった傷だらけのイタチを強く踏みつけた。



「があっ……」

「俺の事を傷つけといてなにくだらねぇこと言ってんだ、ああん!? 相手おもちゃが増えただけの事だろうが!」

「お、おもちゃだと……?」

「そうだよ。俺達が楽しむためのおもちゃ、それがお前らだ。結局、暴力で黙らせればなんとでもなるしな。ぎゃははは!」



 金次の笑い声に続けて他のイジメっ子達も笑い始める。辰也が恐怖を感じる中、イタチの内の一匹は歯をギリッと鳴らしながら一歩を踏み出した。



「てめぇら、いい加減に……!」

「来んな!」

「あ、兄貴……」



 踏みつけられているイタチは近づこうとしたイタチを睨み付ける。



「次男のお前がいま落ち着かなくてどうする。俺を放っておいてさっさとお前達で逃げろ」

「で、出来るわけねぇよ! 兄貴を置いていけるわけがねぇ!」

「やれって言ったらやるんだよ! さっさと風音かのん連れていけ!」

「あ、兄貴……」



 イタチがおろおろする中、金次は下卑た笑みを浮かべた。



「家族愛って奴かあ? くだんねぇものを見せんじゃねぇよ、このけだものがよぉ!」

「おい、金次。さっさとコイツら殺しちまおうぜ? ついでに風祭からおこづかいを貰おう」

「お、いいな。んじゃあ、そろそろしまいにするか」



 金次は制服のポケットに手を入れる。そして折り畳みナイフを取り出して刃を出すと、し踏みつけているイタチにしゃがみながら近づけた。



「て、てめぇ……!」

「そこで見てろよ、お前達の兄貴が殺されるところを……よ!」



 金次がナイフを振り下ろそうとしたその時だった。



「うっ、うわあぁっ!」



 辰也は金次に向かって突進し、そのまま強く突き飛ばした。



「ぐうっ……!?」

「金次!」



 イジメっ子達が突然の事に呆気にとられる中、辰也は傷ついたイタチを掴み、他の二匹に近づいた。



「き、君達も!」

「だ、誰がお前みたいな奴の言うことを……!」

「んな事言ってる場合じゃねぇぞ、風太! 早く風音と一緒にコイツの手に掴まれ!」

「兄貴……」



 風太が迷う中、金次はゆっくりと立ち上がった。



「てめぇ……ただで済むと思うなよ、風祭!」

「ほら、早く!」



 辰也の表情に焦りの色が浮かぶ中、風音は風太に声をかけた。



「風太兄さん、ここはおとなしく言う事を聞きましょう」

「くそっ……人間なんかの力を借りるなんて……!」



 風太は悔しそうにしながらも風音と共に辰也のもう片方の手に捕まった。そして辰也が走り出すと、その後ろから憤怒の形相の金次達が迫る。しかし、辰也は後ろを振り向かずに走った事で、その距離が少しずつ離れていき、辰也が自宅に着く頃には金次達の姿はなくなっていた。



「はあ、はあ……ど、どうにかなったかな……」

「み、みたい……だな……」



 傷ついたイタチが弱々しく答える中、風太はその姿に焦った様子を見せた。



「兄貴! しっかりしてくれよ!」

「風助兄さん、しっかり!」

「はあ、はあ……あんまりでけぇ声を出すんじゃねぇよ、やかましい……おい、人間の兄ちゃん」

「ぼ、僕の事……だよね?」



 辰也の問いかけに風助は頷く。



「そうだ。ふう……すまねぇな、巻き込んじまって」

「ううん、いいよ。逃げ出したい気持ちがないわけじゃなかったけど、やっぱり放っておけなかったから。つい、飛び出しちゃったというか……」

「へへ、兄ちゃん、中々度胸あんじゃねぇか。あんたみたいな奴、嫌いじゃないぜ?」

「あ、ありがとう。とりあえず手当てしないと……みんな、家にあがっていって」

「いいのかい? 兄ちゃんにも家族が──」

「僕に家族らしい家族なんていないから」



 遮るような形で言った辰也の言葉に風助は首を傾げたが、やがて何かを察した様子で息をついた。



「まあここはお言葉に甘えさせてもらうか。兄ちゃん、世話になるぜ」

「うん、さあどうぞ」



 辰也は風助をもう片方の手に持ち代えてから鍵を取り出して鍵を開け、そのまま中に入ってからドアを閉めた。

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