とある戦場にて

とある猫好き

最初で最後の験担ぎ

 待ち合わせ15分前。

 鏡の前に立ち、最後の験担ぎ。


 服のしわ無し。前髪もバッチリ。

 高鳴る鼓動はハンズフリー。今日のあたしはそんなもので止まらない。



「ねえ今どこら辺?」



 慣れないヒールでちょっぴり背伸び。



「わかった、それじゃまた後で」



 お気に入りの音楽をかけ、ドアノブに手をかける。ふと、視界の端で昨日の自分が鏡に映るのが見えた。

 鏡にウィンクし、行ってきますを伝える。



 今日のあたしは晴れのち曇り。やがて素敵なピンク色の雨が降るでしょう。




 壁に寄りかかり、前髪を執拗にいじる猫背の君を見つける。


 今日の渋谷は戦場だ。飛び交う銃弾を避け、おぼつかないけど真っ直ぐ、君の方へと歩く。ヒールがアスファルトに擦れ、ピンク色の火花を散らす。飛んだ火の粉がカラカラな喉に燃え移り、ピンク色の狼煙が上がる。


 こんな気持ち初めて。



 「ほら、ちゃんとエスコートしてよ」


 でも本当は慣れてないから、優しく...ね?



 時刻は六時を過ぎ、街灯が辺りを光で灯し始める。煌びやかな歓迎を受けながら、幼い頃から夢見ていた店に入る。


 準備はオーケー。

 自作の香水もバッチリ。

 

 いつでも、掛かってきな。



 今夜の視線は独り、いや二人占め。

 こんな感じ好きでしょ?今日はだいぶ頑張ってみたから。


 だからもっとこっちに来て。


 ほら、あと一歩。


 もう一歩。そばに来て。




 ───猫カフェの帰り道。折れたヒールに濡れたドレス。今日の帰路は、勝利の香りがする。






 「ニュースのお時間です」


 「昨夜、都内のとある猫カフェで、全身をチュールで塗りたくった二人組の女性が見つかりました。警察によると、二人は猫たちの注意を引くためにこの行為を行ったと供述しています」

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とある戦場にて とある猫好き @yuuri0103

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