第11話 冷えた心に突き刺す刃物
「・・・こんな時間になんなんだあんた!」
「そう、怒らずに!まずは夜分遅くに大変申し訳ありません」
そう言うサトーは冷静に友春に話しかけお辞儀、そしてそのまま自分のペースで話を進める。
「立ち話もあれなので、座ってお話ししましょう」
「清乃さんは私の隣へお座りください。ささっ友春さまも」
「アナタ、そこに座ってください」
「・・・」
ススッ…
目の前にいるのはおそらく同年代くらいの女性。
なのに、雰囲気というか威圧感のようなものに気圧される静かに腰を下ろした。
「それでは改めまして、私xx市で[女性を支援する課]に勤めております、サトーと申します」
「…」
「このように突然ご自宅に来たのも、訳があって参りました」
「・・・なんのことです?俺たちは今大事な話の途中なんで、帰ってもらっていいか」
「そうはいきません、その大事な話に関することですので」
「なんなんだよあんた」
「おそらく、清乃さんと離婚の話をしていたかと思います」
「えっ…」
離婚の話は友春から持ち寄ったことで、清乃は知る由もないはず・・・
それに、この話をしてから清乃はスマホをいじったり、誰かに電話したりもしてない。
なのに、この人は知っている・・・
混乱もありながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
「なんで知ってるんだ」
「私どもはこの街の中であれば、全て把握できておりますので」
「・・・はぁ!?」
「つきまして、離婚のことに関して重大なお話がございますので参りました」
そう言うと、机の上にボイスレコーダーを差し出した。
「残念なことにこのまますんなり離婚だけの処理にする訳にはいきません」
「なぜなら、友春さまは私たちの街に住んでいながら違反を犯しましたので」
隣に座る清乃はまっすぐ友春を見ている。
「では、清乃さまこちら再生してもよろしいでしょうか?」
「・・・」
数秒の沈黙があった。
が、清乃は強く返事をした。
「はい、お願いします」
「では・・・」
カチっ…
静かなリビングで、ボイスレコーダーの音声が流れ始めた。
————
ピピッ…..
「ほんとにありがとうね」
「ううん、私も救われたから」
「それは俺の方だよ」
「あの事故のことが大きいけど、多分ずっと前から不満があったんだと思う」
「・・そうなの?」
「うん・・・清乃は可愛くて顔がすごく好きだった」
「でも、結婚してるのに生でするの嫌がる・・・」
「まぁでもそれは危ないから・・・」
「それはわかるよ?でも結婚したのにさー」
「まぁ男性だったら生でしたい気持ちがあるのかもしれないけどさ…」
「俺だってもし、子供が出来ちゃったらその時は頑張ろうかなって思ってた」
「でも、ちゃんと考えてくれていたのかもだよ?」
「さぁね・・・」
「それにさ…」
「うん?」
「清乃が事故って初めて病院に行った時、なんも言えなくなった」
「ん?」
「病室に横たわる人がこれまで見ていた顔じゃなく別人のよう感じてしまって」
「・・・」
「なんかその時、実際に目の前に清乃はいるんだけど・・・なんつーか、清乃はもう死んでしまったって」
「…」
ピーッ…..
ピピッ…..
「あれからさ、そんなことないって暗示のように問い続けていたけど、意識のない清乃に面会に行くと段々と俺の中の気持ちがさ・・・」
「うん。。。」
「ようやく目を覚まして久しぶりに話した時、声は清乃なんだけど誰?って思っている自分がいたから」
「そっか・・・」
「その時、完全に俺の中の気持ちが消えたのがわかった・・・」
「それからすごくキツかった…」
「もちろんあいつが一番キツいとは思うんだけどさ」
「友春さんは悪くないよ、今回は誰も悪くないから・・・」
「・・・うん、俺の話聞いてくれてありがとうね」
「ううん・・・辛いのはお互い様だから」
「そだね・・・」
「ねぇ、よかったら今日会って話さない?私もだけど、直接のほうが多分電話越しよりいいのかもって…」
「・・・そうかもだね、じゃあ用意できたらまた連絡するよ」
ピーッ…..
————
「友春さま、こちらは清乃さんが事故にあって数日経ってからのやりとりの一部になります」
「・・・なんだこれ」
「まぁ、友春さまもショックが大きくあまり覚えていないかもしれませんが、こちらは確かに友春さまのやりとりになります」
「こんなの知らないよ!!」
「ただ、清乃さんが目を覚ましてからもこのような気持ちだったってお相手に吐露をしてらっしゃいます」
「・・・」
「それから友春さまは目を覚ました清乃さんに徐々に会おうとしなかったですよね?」
「…それは、こんな状況でも仕事はしないといけないから!」
「もしそうだとしたら、この時くらいからお相手の方を家に呼んで家のことをしてもらったり、それ以上のことなどしないはずでは??」
「はぁ??」
「つまり、清乃さんを見捨て不倫しただろってことですよ」
「・・・あんた何言ってんの!!?」
「はぁ…わかりましたでは、こちらをご確認ください」
訳がわかっていない、友春にさらに差し出した。
それは会話をまとめたような資料。
「直近の内容になりますので、心当たりがあるかと思います」
パラっ…
——
xx月xx日
A氏
[ほんと暑いね〜]
友春
[まだ夏はこれからなんになぁ〜]
A氏
[ほんとだよ、、、でもそれ過ぎたら私の好きな秋!!]
友春
[秋好きなんや〜!]
A氏
[そうなの〜!食べ物も美味しいしね!それに私、秋刀魚が好きなの!!]
友春
[そうなんね〜]
A氏
[うん!だから秋になったら採れたてが食べられるところ行こうね〜♡]
友春
[おお〜いいね!行こう!!]
——
「こちらの内容に見覚えありますよね?」
「・・・」
「まだ他にもございますよ」
——
xx月xx日
A氏
[もう付き合って1年も経つんだねー]
友春
[あーそうだね〜!お前がいてくれたおかげで俺は生きがいになったよ]
A氏
[えへへ///私もだよ]
[あっねぇねぇ、来月私の誕生日だからプレゼント欲しいなぁ〜って]
友春
[そんなん言わなくても用意するのに(笑)]
A氏
[ほんと?ありがとう〜!!]
[私ね〜!これ欲しいの!!すっごい可愛くない!?]
友春
[おーこのネックレス可愛いね!]
A氏
[でしょ!!]
[そこまで高くないから・・・これほしいなぁ〜]
友春
[いいよ〜!]
A氏
[優しい〜〜!好き!!]
友春
[俺もだよ〜!あっ・・・今日もえっちしたいな]
A氏
[え〜・・・私も///]
友春
[エッチだなぁ〜///いけない子だから今日も中でたくさん出してあげる]
A氏
[えへへ///いけない子です、トモくんの熱いの奥にいっぱい出してね]
友春
[しょうがないな、何回も出してあげる]
——
「どうです?こちらの内容は友春さんとお相手の会話になりますが、心当たりありますよね?」
「それに・・・昨日、清乃さまとの夕ご飯の際に、お気づかれたかと思いますが?」
「・・・」
そう、昨日のこと。
清乃との夕ご飯で出した秋刀魚やその後のネックレスのプレゼントの話。
それは、友春が不倫相手とちょっと前に会話していた内容のもの。
それを清乃は知っていて、わざと仕向けていた。
「アナタ、もう言い逃れは無理です」
「アナタは私を騙し、傷つけた。だから諦めてください」
「・・・」
「先ほどの離婚届は大丈夫です、私の方から改めてお渡ししますから」
「あと、こちらもです」
バンッ!....
そう言って強くテーブルに叩き置かれたのはA4サイズの紙2枚。
1つの紙には「慰謝料請求書」と記載され、金額が300万円。
そしてもう1つの紙には「xx市における反逆罪及び請求書」を書かれ金額が記載されていた。
——
100,000,000円
——
「……1億円!?ふ、不倫しただけだろ!」
「しただけって、ほんと変わらないのね」
「私もアナタの要求を受け入れますので、こちらの対応をお願いします」
「こんな法外なの認められる訳ないだろ!それにそもそもなんだこれ!!!」
「・・・はぁ、あなたはこのxx市の住民ですよね?」
「ここの住民は皆、了承をした上で移住してるんですよ?」
「はぁ〜!?そんなの知らないよ!」
「だってアナタ引っ越して住民登録する際、全部私の任せてなにもしなかったじゃないですか」
「それ以外もそう、全部私任せで何も手伝ってくれたことはない」
「・・・そ、それはお前だから」
「別にそれでもよかったんです、ちゃんと私を見てくれて、守ってくれて、支えてくれていたら・・・」
「このxx市は過ごしやすい環境の提供をしてくれる良い街」
「でも、女性を傷つける人にはそれ相応の対処措置があった・・・」
「アナタがちゃんとしていれば、こんなことにもならなかった」
「…」
「私だってこんなことしたくなかった」
「でも、アナタは私を傷つけ、侮辱し、見捨てた」
「・・・だとしても、こんな金額はありえない」
「もう、どうしようもないんです・・・」
「私はアナタがしてきたこと全部把握してますから」
スッ…
「こちら、私が提示した慰謝料300万円とは別の請求の詳細がまとまったものです」
「こちらにアナタが私を傷つけこのxx市に違反した罰金の内訳が記載されています」
そう言って、差し出したのは数十枚に重なった資料と友春の数々の悪行がまとまり、それぞれに対価が記されたものだった。
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