第14話 次の攻略対象に向けて
私は波風凪、モデルと攻略者を兼業している女である。
我がギルドの目的はLランクの名古屋城ダンジョンの完全攻略である。このダンジョンはまだ完全攻略されていない神工的ダンジョン。
私が現役の間に完遂できるように精進する所存である。
今宵は日課であり楽しみでもある、飼い猫との散歩である。
「今日はどこまで行こうかにゃ〜」
機嫌の良い私の視界に衝撃的な映像が飛び込む。
雷が自身に降り注いだと錯覚する程の衝撃である。
食材が入った袋を持った黒金くんとビジネスパートナーが談笑しながら歩いている光景である。
もしも街中にあの二人はカップルですか、と質問すれば10人中9人は「はい」と答えるだろう。
ふわふわで暖かそうな空間。
「おかしいよそれは。どうして私生活まで一緒にしようとしてるの? 明らかに今から晩御飯食べますって雰囲気じゃん。おかしい。それはおかしい」
フツフツと煮え滾る怒りに怯えたのか、抱っこしていたにゃんこが怖がって暴れだした。
それに気づかないほど、私の視界は怒りによって赤く染まっている。
「彼女である私とは一度もそんな事した事ないのに⋯⋯酷いよ。それは擁護できない。歴とした浮気だよ」
帽子とサングラスを外し、結んでいた髪を解いて黒金くんが良く知る私の姿になって問いただそうと近づく。
しかし、周囲に私の事を知っている人がいたのかゾロゾロと集まって来る。
「波風さんですよね! ファンなんです。写真良いですか?」
「え、あの」
「本物だ!」
「すげ〜綺麗」
「いや。その」
集まった人達により、黒金くんを見失ってしまった。
まぁ、良いだろう。
動画によって顔は割れている。後は調べれば良いのだ。
どんな女なのか、徹頭徹尾調べ上げる。
まずは⋯⋯。
「今日の散歩はここまでだ」
全速力で逃げる。
◆◆◆
彩月の家で作戦会議をし、次の攻略対象を決めた。
そして下見にやって来た。
「ここが神工的ダンジョン『陸鳥の天邪鬼』」
「ほへー。まさか鶏の農場にゲートがあるとは。神様も融通が利きませんね」
「モンスターの特徴が一発で分かるから良いじゃないか」
ここのダンジョンのメインモンスターは『陸鳥』である。
見た目は巨大化した鶏だ。
普通に飛ぶ個体もいるので、普通の鶏と同列に考えると痛い目を見る。
「一応聞くけど、車酔いとか大丈夫だよね?」
「問題ないよ。幸時は?」
「俺も。じゃ、早速攻略開始と行くか」
鶏の羽に囲まれたゲートを通り、俺達は中に入った。
特に変哲の無い洞窟の中の迷路と言う感じである。
入口付近は気にする必要ないので、サクサクと歩く。
「今更なんだけど、ダンジョンの構造とかネットで出ていると思うけど、どうして自分で徹底的に調べるの?」
「ネットの情報が完璧だとは限らないからだ。確かに、俺と同様の加護や能力を持った人がネットに掲載している可能性もある。信憑性は高いと言える」
「だよね? 効率悪くない?」
「⋯⋯そうだな。例えば、超レアアイテムが確定で手に入る宝箱のエリアがあります。特定の条件を満たさないといけません。知っているのは自分だけです。ネットに載せますか?」
「載せないね。独り占めして儲けるよ。あるいは未知の発見としてたんまり情報量を貰って、その情報を大規模のギルドとかに売る」
「だろ? そう言う事だ」
RTAをするには全てを正確に把握する必要があるのだ。
ネットだけの情報では分からない事もある。
「それにネットだけでは地面の性質や硬さ、空気感などは分からない」
「重要なの?」
「走る場所など、しっかりとしたルートを決める上では必須だ。だから俺は毎回、自分で調べて最適のルートを模索する」
「ふーん。凄いね」
「世辞でも嬉しいな。できる事を突き詰めてやってるだけに過ぎないよ」
「世辞じゃないよ。素直に受け取りなって」
進んでいると、天井に深い穴がある事に気づく。
ショートカット用の道か純粋な落とし穴か。
「奥の方真っ暗で見えないね」
「ああ。⋯⋯でも、メーティスの加護があれば。【アーカイブ】『マップ』」
ネットで拾って来たダンジョン構造と今まで通って来た場所の地図を展開する。
それを組み合わせて現在地を特定し、穴が何なのかを確認する。
穴の先は少し広い空間ってだけであり、他は何も無さそうだった。
「トラップだね」
「そのようだな」
落とし穴なのに天井にあっては意味が無い。誰もがそう思うだろう。
それがこのダンジョンの大きな特徴である。
『天邪鬼』このダンジョンは一定の周期で重力が切り替わる。
いきなり、天井と地上が逆転するのだ。
「タイミングをしっかり考えないと時間が大きく掛かる」
「今ってボス部屋どっち? 上? 下?」
「上、だな」
「じゃあ現状ボス部屋の攻略は不可能なんだね」
「そうだな。少なくとも俺達の力じゃ待つしかない。その間にもできる事をしよう」
「はーい」
地形を把握しつつ、目指したい場所があるので向かう。
時々宝箱を発見して、宝石や薬草を手に入れたりした。
単品では売る以外に俺達の選択肢は無い。外に出たら山分けと行こう。
「回収できる物は今のうちに回収しないとね。配信中は無視だからさ」
「そもそもここはCランク。鶏肉も手に入るから人気のダンジョンだ。中身が残っているだけラッキーだよ」
陸鳥の鶏肉は控え目に言ってもあまり美味しくないが。量は取れるのでスーパーとかではかなり安い。
廃棄の際もダンジョンに放置すれば吸収されてしまうので腐って捨てる問題は解決している。
言うなれば、陸鳥の鶏肉は高確率のドロップアイテムである。
「さて。周期的にはそろそろ重力が切り替わるな」
「クッション用意する?」
「いや⋯⋯必要ないかな」
呑気に会話をしていると、奥から黒色の鶏⋯⋯陸鳥がやって来た。
黒の羽毛は凄くもふわふわで柔らかそうで、強い衝撃を和らげてくれそうだった。
「速いっ!」
「嘴攻撃に注意して。鉄も軽く貫通するから。横からの攻撃が有効的⋯⋯ヘイトは俺が」
俺が前に出て短剣を抜き、嘴攻撃の突進を受け流す。
「2重もすればワンパンできるはずだ」
「おっけー!」
陸鳥を横から掻っ捌く彩月。鮮血を噴射しながら塵となる。
鶏肉は落とさなかったが、確定ドロップアイテムの魔石を落とした。
剣の方もまだまだ大丈夫そうだ。
「いえい」
「ナイス」
ハイタッチをして互いに健闘を称え、重力が切り替わる。
「よっと」
「そい」
ダンジョンを攻略する上で最低限の身体能力は確保しないといけないし、攻略していれば運動能力は嫌でも上がる。
切り替わりに合わせて空中で回転して、着地する。
このくらいなら初心者以外なら誰でもできるようになるだろう。
「それじゃ、お目当ての場所に行こうかな」
「お。待ってました」
移動を再開し、暇だったのか彩月が話しかけて来る。
陸鳥も一度戦えば慣れたのか、彩月さんがあっさり倒す。
「幸時ってどうしてお金が欲しいの?」
「生きるため。後は⋯⋯母の入院費と下二人の学費だな。あの子達には苦労を掛けずに自分達の事に集中して欲しいんだ」
「バイトとかさせないの?」
「今はそれよりも重要な事があるんだよ。稼ぎに二人の時間を使わせたくない。その分、俺が頑張れば良いからな。後悔しない生き方をしたい、その一心さ⋯⋯今はそんな二人に支えられて、何とかやってこれている」
「そうなんだ。話してくれてありがとう。立派だね」
「そうか?」
「そうだよ。私なんて親子喧嘩で家出して、いっぱい稼げると思ってこの世界に入っただけだからね⋯⋯結果はこの通りだけど」
「十分凄いと思うけどな」
お金が無いアピールなのか、手をパッパっと広げる。
人がダンジョンに挑む理由は千差万別。どんな理由があろうとも構わない。
短い会話だったが、楽しい時間を過ごせたと感じた。
そして目的の場所へと到着した。
「ふへ〜。本当に広いな」
「上にも下にも⋯⋯一度迷ったら出られないとは良く言ったもんだな」
天井が高く、地面は深く。そんなバカ広い空間に出た。
しかも、あちこちの壁に穴が空いて、道が伸びている。
「不思議な空間にいるみたい」
「本当だな。⋯⋯と、下から白の陸鳥が来るぞ」
「陸鳥なのに飛行能力持ってる白いのズルくない? 詐欺じゃん詐欺」
「まぁな。キックに注意しろよ。これも横に回避すれば問題ないはずだ。頼むぜ火力担当」
「ハイハイ。タイミングを教えてね情報担当」
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