第9話 ランダム構造ダンジョンRTA

 俺達はダンジョンに入り早速走っている。


 “始まりました!”

 “くろきん消えろ!”

 “いきなり大目玉のダンジョンだな”

 “完全ランダムなんだから最速攻略は運だろ”


 “前日に地図を用意しても変わってるしな”

 “今回は無理だろ。数年間更新されてないレベルなんだから”

 “モンスターとかは大して強くないんだよな”

 “無理に1票”


 “さっさと挫折してレイちゃんを返して欲しい”

 “我は普通に応援してるぞ!”

 “頑張れ!!”

 “くろきんのナビゲーションがあれば行けるぞ!”


 地図を常に出し、通った道もしっかり記録する。


 視界に入った道から予測していた地図を絞り込んで行く。


 「くろきん、今のところ予想通り?」


 「まだ始まって6分だからな。問題ないぞ」


 「その言い方だと時間が経つと問題が出て来るような言い方だね!」


 「えへへ」


 「今のどこに照れる要素があるのか長時間じっくりと話し合いところだね」


 進んでいると、アリヤーデの群れに遭遇した。


 「虫系のモンスターって巨大化するからマジで気持ち悪い」


 「虫好きを敵に回すねくろきんは」


 さて、彩月さんは気づいるだろうがここでの接敵は想定外である。


 俺の予測の中には今の時間にこの場所にモンスターはいない。


 想定外が起こると問題がある。それは予測しているダンジョン構造が殆ど意味を無くす。


 このモンスター達がどのようにしてこの場所にやって来たのか、そこを考える必要があるだろう。


 「まぁ、想定外の想定内だな」


 「意味の分からない言葉だよね!」


 “想定外の想定内とは?”

 “想定外に概要されるモノを想定しており、それに当てはまった形だろう。ただの想定内”

 “回避か戦闘か”

 “くろきん上級者ならここは逃げ一択”


 “レイちゃんなら倒せる。戦闘に1票”

 “こんな雑魚レイちゃんならワンパンできる。だからくろきんどけ”

 “レイちゃんの輝かしい活躍が見れるのか”

 “待ってました”


 俺達は身体のどこかに装備してある紙を取り出す。


 「早速使うか」


 「はい!」


 ビリッと紙を破り自身にエンチャントを掛ける。それが重ね掛けされる。


 掛けたエンチャントは『速度上昇スピードアップ』と『跳躍上昇ジャンプアップ』の2つだ。


 下手に道を変えると迷う事になるのがこのダンジョンだ。


 だから、俺が進むのは前。


 「壁を走って突っ切る!」


 「作戦通りだね!」


 「壁を走るにもコツがあるぞ!」


 「はい! 【生体付与ティーアエンチャント】くろきんの動きを私に模倣エンチャント!」


 俺は壁を走ってアリヤーデの群れを突破する。


 アリはジャンプできないので、ある程度の高さがあれば簡単に越えられる。


 逆に言えば、ある程度の高さがなければ抜けられない。そして、このダンジョンはその特徴から基本的に高さは確保されない。


 今回は運が良かった。


 「結構足が痛むっ!」


 動きの模倣⋯⋯問題なく俺について来れている。


 しかし、普段しない動きをすれば身体が悲鳴をあげる。


 俺と彩月さんとでは普段の攻略方法も違うだろうから、余計に痛むだろう。


 「しっかし⋯⋯能力由来の動きじゃなければ動きを完コピできるって⋯⋯普通にチートだよなぁ。技術を磨いて来た人涙目だろ」


 「一時的で自分のスキルにできる訳じゃ無いけどね。何回も使えば身体に馴染むけど、長年鍛錬して磨いた技は会得できないよ。細かい意識とか感覚が掴めないからね」


 「なるほどなぁ」


 アリヤーデを超える。アイツらも追いかけて来るだろうが、エンチャント効果が持続している間に引き剥がす。


 手短に視聴者と彩月さんに次の事を伝える。


 「予測したルートをこのまま継続して走る。予測してないルートを発見次第即座に修正し新たな予測を立てる⋯⋯大丈夫?」


 「私はそんなのできないし分からないので、貴方を信じて追いかける。だから、迷わないでね」


 「安心してくれ。それが俺の仕事だから」


 “回避だあああ! 合ってたあああ!”

 “予想が当たると嬉しいよな”

 “しっかしあの巨乳のお姉さんのエンチャント凄いなぁ”

 “なんだよ相手の動きをエンチャントって。概念が壊れるよ”


 “レイちゃん視聴者、初めて見るエンチャントに困惑”

 “2人ともコラボ経験ゼロのソロプレイヤーだからな。ぼっちは厳しいよな。ソレ”

 “もしも動画の中の人の動きも模倣できるってなったらやばかったな”

 “一体どんな神の加護を得てるんだ? エンチャント系は少ないけど”


 “これってワンチャンある?”

 “アリの巣迷宮ってかなりの深めだからまだまだだろ”

 “レイちゃん一人の方が絶対に早い”

 “レイ信者がうざくなって来た”


 “タイム更新を確定させろよ!”

 “階層的に表せば今は1階か?”

 “アリの巣迷宮って縦にも広いけど横にも広い”

 “これ人工的だろ? 設計者出て来いよ。性格悪い”


 “管理者、管理を丸投げしたダンジョン”

 “今の経過時間23分か。やばくね? これでまだ1階かよ”

 “難しいなぁ”

 “1割くらいか。攻略できたの”


 “この後もさらにモンスターの数増えるんだろうなぁ。無理無理”

 “諦めて帰ろうや”

 “何かしらの部屋に入った瞬間更新は不可能。予測したルートを通れてないからな”

 “てか、何パターン用意したの?”


 “コメ返信しない程には忙しいようです”

 “普段なら返してるのに”

 “レイちゃんが見たいお”

 “うちのギルド所属の情報隊に確認したら現実的に全てのパターンを把握する事はできないらしい”


 コメントで『できるぞ!』ってコメントが少ないのが腹立つ。


 まぁそれだけ難しいのは間違いないだろう。


 既に想定外のモンスターとのエンカウントがあったんだからな。


 「人影が!」


 彩月さんが指を向けた方向には数人の人影が見えた。


 「ははは。良くないなぁそれは。どうしてこうも会うんだろうねぇ!」


 「えぇ! ⋯⋯もしかして、あれって私達を狙ってます?」


 「うん! そう! 作戦会議中に言ったでしょ」


 「マジだったのかァ」


 唖然とした様子の彩月さん。


 人影の正体は当然同じ攻略者。だが少し特殊でギルド所属だ。


 そのギルドはこのダンジョンと専属契約している『彗星の軌跡ステラロード』である。


 ではなぜ、そんなメンバーがここで仁王立ちして明らかに俺達の方を見ているのかと言うと⋯⋯妨害である。


 別にちゃんと攻略クリアしていた訳では無いが、ボス部屋までの時間でも早ければ『ほーやるやん』となる。


 そんで俺は戦闘能力が無く孤独ぼっちだった。


 その結果、複数人で挑んだ最速攻略の時間を上回るとソレが『前の奴ら実は弱いんじゃね?』に繋がる。


 それがギルド的には許せないらしく、定期的にRTAを妨害するギルドが現れる。


 つまり、ギルドの権威を保つ為に邪魔をしてくるのだ。


 ありがたい話である。それを越えると再生数が上がる。


 「まさか本当に下の配信者相手にギルドが動くとは⋯⋯」


 「俺の動画では人気な方だからすぐに見つかると思うけどなぁ。調べてない?」


 「あまり高評価無かったよ?」


 「⋯⋯それはあれだ。彼らの壁を越えるとギルドファンのアンチが集まるから。⋯⋯うん」


 「だから再生数は高いのか」


 あーやばい。心が痛いよ。


 まぁ。良い。考えたって仕方の無い事だ。


 「それで、これも作戦通り行くんだよね!」


 「もちろん!」


 ランダム構造で会うなんて、本当に不運だ。


 しかも、中心に見える女性を確認するとそれがより深く心に刺さる。


 凛々しく仁王立ちする女性。


 蒼色の長い髪をポニーテールにし、水色の瞳を薄く開けている。


 大きな薙刀を武器としているのでよく目立つ。


 だが、1番目を引くのは顔だろうな。


 “待ってあの人”

 “なんでこんな低ランクダンジョンに?”

 “うそー”

 “まじかよ”


 ステラロードの中でもトップクラスの実力者であり、モデルを兼業している。


 「波風なみかぜなぎ


 なぜか1番良く会う攻略者で有名人物であり、俺へのアンチを1番加速させた人物。


 「嘘。私でも知ってる。生波風さんちょー綺麗。知り合いなの!」


 「全く。邪魔される回数が多くて対策も兼ねて調べたら覚えただけ」


 「そうなんだ。どうする? サイン求める?」


 「冷静にボケないで。普通に超えるよ。俺達の目的忘れちゃならん」


 「そうだね。ごめん。少し興奮してた」


 俺達の目的はRTAだ。


 モデルとかギルドとか関係ない。


 障害は越えて最速の攻略を目指すのみ!


 それにぶっちゃけ、俺モデルとか興味無いタイプの人間だし!


 可愛い人とかカッコイイ人とか目の保養なら妹と弟で十分過ぎる!


 「行くぜレイ!」


 「あいさー!」


 俺達は『このダンジョンで最も高い障害』に挑む。

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