第4話 手を組んで補おう

 「そのメリットとは、これになります」


 机に置かれたスマホの画面を見ると、俺の動画が流れており、コメント欄を表示していた。


 RTAと言いながらボスを倒せない、ダンジョンクリアができていない。


 なのにRTAと語っている事に対する罵詈雑言だった。


 「私は火力が出せます⋯⋯つまり、ボスを倒す事ができます。今までのRTAとは違い、しっかりとクリアができます」


 「確かに⋯⋯そしたらこのアンチを見返す事はできます」


 「ええ!」


 「だが」


 彼女の言っている事は正しいのだろう。


 俺も調べている。彼女の技術は低くない。そして火力だけならば飛び抜けて高い。


 重ねがけしたエンチャントから放たれる一撃は魅力的だ。


 しかし、とある一点において破綻する事が分かる。


 「本質はスピードです。時間短縮をするために色々な動きが求められる⋯⋯それを踏まえた訓練をしてこなかった貴女に務まるとは思えません」


 俺と同じ動きができなければRTAと言う企画が破綻する。


 エンチャントで無理矢理どうにかしても、いずれ綻びが生まれて失敗するに決まっている。


 「ご安心ください。能力由来の動き以外は模倣できるエンチャントがあるので」


 「えっズルい」


 「動きには問題ありません。必須戦闘も私が倒せば最短で終わります」


 「⋯⋯」


 想像以上のエンチャンターだな。


 これがイザナミの加護と言う事か?


 エンチャントアイテムの作成、動きの模倣⋯⋯これでどうして配信者なんてやってるんだ?


 普通にギルドとかに所属して契約金貰いながら高ランクダンジョンで活躍する強さだ。


 「金の問題が」


 「私達が手を組み、最速攻略を次々にあげて行けば視聴者は集まると思うんです。純粋に今の質をより大きく上げられる。分割しても今よりも収益は上がります。2人のチャンネルのライブ動画を編集したモノを各々のチャンネルで使えば副収益も見込めます」


 今のチャンネルはそのままにしておくのか。


 2人のチャンネルは本編、重要な部分や見所を切り抜いて自分のチャンネルで配信する。


 「私のウケは容姿とパワー、そこに機動力とボス攻略が加わります」


 彼女は俺とは違い、強すぎて武器が耐えきれずボス攻略ができていない。


 俺が戦闘回避の道を選べば武器を温存できる⋯⋯ボス攻略に繋がる。


 2人の目的は同じ、ボスを倒せない大きなデメリットの共通点を埋める事ができる。


 「⋯⋯お金の分配方法は?」


 「半分でどうですか?」


 「⋯⋯良いのですか? 1度助けただけでこんな話を持ち出して。正直俺への信頼は無いと思うのですが?」


 「ええ。ですが、お金の絡む時の貴方は信頼できます⋯⋯より儲かる方に手を貸す。ですよね?」


 「良くお分かりで」


 動きが問題ないのなら、今までの足りなかった分が補える。


 動画の質が上がれば視聴者も増える。数が増えれば収益も増える。


 彼女のチャンネルに湧くガチ恋勢とかが気になる点だが、それを無きにしても伸びる可能性はある。


 本格的なRTAが可能。より稼げる。


 彼女の碧眼に映る俺の顔は⋯⋯笑っていた。


 これからの可能性に期待して。


 「分かりました。これからよろしくお願いします。動画の時はくろきん。今は⋯⋯幸時とでも。その方が親しみやすいですよね?」


 「改めてよろしくお願いします。では私は彩月とお呼びください。配信中はレイ。距離感があると動画のテンポが悪くなるかもしれませんので、敬語なども無くしましょう」


 「分かりました」


 今日は一旦解散とし、新たなチャンネルを開設する事に決めた。


 お互いに得のある話。


 ボスを倒せないと言うダンジョン配信者としては決定的にダメな点を無くせる。


 足りなかった部分を補い、より再生数やチャンネル登録者数を稼ぐ。


 結果的に収益の増加に繋がる。


 「頑張らないとな」


 俺が配信する目的は金稼ぎ。それは家族のためである。


 翌日、初めて彩月さんとであったコボルトが出現するダンジョンへとやって来た。


 昨晩、通話で会議しながら共にチャンネルを開設した。


 「おはよう幸時きはる


 「⋯⋯おはようございます」


 「ん? どうしたの?」


 「いえ。順応が早いなと」


 昨日の今日で呼び捨てにされるとは思わなかった。


 それが伝わったのか、相手が顔を赤くしてアワアワと慌てだした。


 「ライブ中に距離があったら良くないじゃないですか。それにダンジョンの中で信頼関係はチームプレイに影響がありますから。だ、だからその。昨晩寝ずに練習したんですよ!」


 力強く物凄く恥ずかしい台詞を言った彩月さん。


 恥ずかしさが限界突破したからか、自分の銀髪で顔を隠した。


 「やっぱり今の無しで」


 「可愛いかったですよ?」


 「なっしっでっ!」


 「俺の能力的に情報の消失は難しいなぁ〜」


 距離を縮めるためにからかうと、大粒の涙を浮かべてしまった。


 いきなりとてつもなく申し訳ない気持ちに襲われ、俺は歩道の真ん中で土下座をした。


 「⋯⋯ごほん。気を取り直して、今日はどうするんですか?」


 「お互いの能力の把握と明日早速ライブを始めるための練習です」


 「早いですね」


 「ご存知だとは思いますが、俺が彩月さんを助けた動画が拡散されてプチバズりしています。今の状態ならガチ恋勢は無理でも容姿を目的に観に来る視聴者は寛容なはずです。この波が消え去る前に乗り大きくしたい」


 「意外に考えているんですね。びっくり」


 「俺をなんだと思ってるの?」


 「金にがめつい男?」


 好感度メーターが可視化されたら、彩月さんの俺に対する好感度ゲージはゼロだろうな。


 気を取り直して、ダンジョンへと入った。


 歩きながら説明する事にした。


 「コボルトのダンジョンは1週間毎にモンスターの初期配置が変わる。1時間ペースで倒されたモンスターは初期配置で復活。んで、その初期配置のパターンは3パターン。順にABCとしている」


 ダンジョンの中なので敬語は止めて、素早く説明をする。


 敬語は時間ロスに繋がるのだ。


 「現在はBパターン。そして明日は日曜日、Bパターン最後の日になる。初期配置的にBパターンが1番最短で攻略しやすい配置だ」


 【アーカイブ】の能力を使って立体地図を出して彩月さんに見せる。


 これを暗記する事はできないだろうが、より具体性を持たせるために出しておく。


 「そしてルートがこう。俺が先導するから覚えなくても良いけど、一応頭に入れておいて」


 「はい」


 ルートとモンスターの配置を教えたら、走る準備をする。


 「スピード上げる?」


 「それは大丈夫。感覚が鈍ったり変になったりするから。逆にタイムロスに繋がるかもしれない」


 「成程」


 「それに魔力も温存するに越した事は無いしな。それじゃ、走るから」


 「了解であります!」


 最短で攻略できるルートを選びながら走る。


 模倣しないといけないような動きはしないので、問題無く追って来ている。


 サポート系の能力のはずだが⋯⋯中々に体力がある。


 それに⋯⋯。


 「普段からエンチャントは使ってないようだな。動きに乱れが無い」


 「そうだね。必要な時に使えなくなると困るから。もちろんエンチャントした時の動きも練習してるから、問題ないよ」


 「エンチャント時の動きは俺の方が問題ありそうだな」


 必須戦闘の場所がやって来た。ここは戦わないと通れない。


 普段ならサクッと倒すべくガス玉を使うのだが⋯⋯練習なので使わない。


 本番通りの方が良いのだろうが、予定に無い事だったのでガス玉の余裕が無い。


 なのでここは、彩月さんの実力を見る事にしよう。


 「剣へのエンチャントは無しで」


 「はいっ!」


 自身へとブーストエンチャントを掛け、コボルトを倒す。


 瞬殺とは行かなかったが、それでも安定して倒していた。


 「配信では分からなかったけど、普通に強い?」


 「ん? 何か言った?」


 「いや、何でもない」


 もしかして彼女⋯⋯自分のコンセプト間違えたのでは?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る