第3話 一緒に配信しませんか! YES/NO
「あの⋯⋯助けて⋯⋯いただいて⋯⋯」
「ぬおおおお! 剣が! 唯一の剣がああああ!」
その後、ダンジョンの中だと忘れて数分絶叫した後に冷静さを取り戻した。
感謝の念はどこかへ行ったのか、冷めた表情を浮かべる女性。
ポーションで応急的に回復したが、痛そうだ。
傷も完全に塞がってない。
「⋯⋯今日の配信はここまで、ですね。地上まで送ります」
「良いんですか?」
「ええ。もう企画倒れですからね。早く戻りましょう」
武器も無いし危険だ。
大急ぎで帰りたい。
「それでは、お願い⋯⋯します」
壁に持たれながら、ゆっくりと立ち上がる。
「⋯⋯ふむ」
俺は能力を使って彼女の状態を分析する事にした。
足への負傷が大きく⋯⋯歩く事はできそうに無かった。
「エンチャントはまだ使えますか?」
「え? あ、はい」
戸惑った様子の彼女の前に背を向けて腰を下ろす。
「では俺に筋力上昇のエンチャントをしてください。おぶって行きます」
「え、そんな。大丈夫ですよ」
「攻略者の資本は身体です。その足で歩かせる訳にはいきません。回復系の能力も万能では無いですからね。もしも不完全に治ってまともな動きができなくなったら終わりですよ」
「それは⋯⋯そうですが」
まぁ男の背中に身体を預けるのは不安だよなぁ。
でもこれが1番運びやすいし⋯⋯。
どうにかして説得するしかないか。
「傷も少しは塞がったとはいえ、完璧ではありません。最速で帰るならこれが最善です。我慢してください」
「⋯⋯うぅ。はい。お願い、します」
「こちらもエンチャント、お願いしますね」
「あの。それって遠回しに私が重いって言ってますか?」
俺の能力は基本的に個人情報は分からない。
しかし、分析能力を使えば身体的特徴を測る事は容易である。
憶測になるのだが、体重の結果も出ている。
「⋯⋯いえ。そんな事は。念の為です。最速で帰るためです」
「目を逸らすんですね」
諦めた彼女は同様に配信を終え、俺の背に身体を預ける。
「おぉ⋯⋯」
「重いですよね?」
「いえ。そんな事は⋯⋯」
気にしないようにしていたが、やはり密着すると感じてしまう物があるな。
うむ。⋯⋯大きい。⋯⋯どことは言わないが。
「【アーカイブ】『マップ』」
現在の時刻からモンスターの位置を予測演算し最適のルートを計算、それを地図に映す。
後はそこを通って帰るだけだ。
モンスターとの接敵は1回あったが、ガス玉で乗り切り地上へ出られた。
「ありがとうございます」
「いえいえ。これも成り行きですから」
さて、下ろすにしても足が回復した訳じゃない⋯⋯。
「お、ラッキー」
周りを見れば他の攻略者を発見した。明らかにヒーラーと思われる姿も。
俺は女性を背負った状態でヒーラーに近寄った。
「あのすみません。この方がダンジョンで怪我をしたので、軽くで構いませんので回復をお願いできませんか?」
「構いせんよ」
回復魔法を掛けて貰い、足を回復して貰った。そして傷も塞いで貰った。
「ありがとうございます!」
「良いですよ。いつかお返し期待してますね」
「あ、だったらこれを」
女性はヒーラーに
「⋯⋯えっと、こんなに良いの?」
能力を強化できるエンチャントはとても希少⋯⋯と言うかエンチャントの能力自体が希少だ。
それをタダで、しかも持ち運びのしやすく発動しやすい紙。
ヒーラーさんにとってはちょっとした能力行使。申し訳無くなっている。
「ふぅ。帰るか」
俺は家に帰った。武器をどうしようかと悩みながら。
翌朝、俺のスマホに珍しく通知が入っていた。
「DM⋯⋯レインボームーン⋯⋯」
目を擦りながら、内容を確認する。
長文だったので要点をまとめる事にした。
このアカウントは昨日助けた配信者の女性らしく、助けて貰ったお礼と今後の話をしたいから会いたいらしい。
ここで俺の取れる選択肢は3つある。
一つ、ロック画面で通知内容を見ているので既読を付けてないから、普通に無視する。或いは既読無視。
二つ、普通に断る
三つ、受け入れる。
「助けたお礼か⋯⋯」
ガス玉、マッチ棒、短剣。彼女を助けるのに消えていた俺の財産だ。
助けて何も受け取らない、それはきっとカッコイイ行為なのだろう。
「ふっ。俺も男だからな」
午後、ファミレスで俺はレインボームーンさんと会った。
当然謝礼金を貰うために。
カッコイイとか関係ないし。男の前に俺は兄だ。家族を食わせねばならん。
無駄遣いしたくないのだ。貰えるもんは貰う。
「こんにちは。改めて、先日は助けていただきありがとうございました」
深々と頭を下げられた。
「構わんよ。攻略者として当然の事をしたまで⋯⋯それでおか⋯⋯じゃなくてお礼とは?」
現金な話を最初から持ち出すと、好感度は下がるのか相手の顔から笑みが消えた。
仕方ないよね。うん。
「まずは自己紹介を⋯⋯」
俺はそれを手で制す。
ここまでの関係にしたいので本名なんて聞きたくない。
「必要事項だけの会話で終わらしましょう。それ以外は無駄と判断します」
「私の話を聞いてくれたらここでの食事代奢ります」
「詳しく聞きましょう」
スマホで先程の発言を録音してから、注文して話を聞く事にした。
この態度には流石の彼女も⋯⋯既に好感度は地の底らしくあまり変化は無かった。
「⋯⋯私の名前は
DMを貰ってから俺もどんな人か調べた。チャンネル登録者3万人⋯⋯そして俺よりも後の時期から入って来た後輩。
はは。泣けてくる。
結局世の中ルックスか。スタイルか。この容姿至上主義社会め。
「⋯⋯俺は黒金幸時です。同じく配信者です」
「黒金⋯⋯成程」
「今苗字で納得した内容について詳しく聞きましょうか」
「本題だけで素早く終わらせましょう。貴方もその方が良いらしいので」
先に言い出したのは俺。言い返せなくなった。
「本題と言うのは⋯⋯一緒に配信をしませんか」
「コラボの誘いですか?」
「いえ。タッグで新たなチャンネルを立ち上げて配信するのです。二人三脚でやりませんか、そんな誘いです」
「どうしてそんな考えに?」
助けて貰ったから⋯⋯そんな安い理由なら俺は速攻で帰る。
だって怖いから。そんな軽い理由は。
「私は家出してまして⋯⋯」
「身の上話聞きたくねぇ」
これは長い話になりそうだな。
「建前と本音逆になってません?」
「安心してください。本音も建前もあまり変わりません」
「そうですか。では続けます。家出をして、お金が必要で⋯⋯そこで私、かなり珍しい神からの加護を頂いているのでダンジョンでも行こうかな、となりました」
珍しい神、ね。
「その神はイザナミです。それで、配信も並行してやるようになりました。ダンジョンの収益だけでは生活できないので」
「分かる。命懸けなのに貰える金少ないよな」
ギルドに所属しようにも情報収集の能力者は沢山要らないので、教養やスキルの無い俺は門前払い。
「はい。それでダラダラ続けて今の状況に。正直、私は限界を感じているんです。今も低迷気味で。口下手で配信もあまり面白くないし、ずっとワンパンのワンパターン」
ワンバンできるだけで十分凄いけどな。
「それに⋯⋯武器を何個も買うので基本赤字なんです」
「はぁ」
ちょっと泣きそうだ。
「そんな中、私を助けてくれた貴方も配信者。これはきっとイザナミ様が与えてくださった
「あ、そう言うのいいんで」
なぜかロマンチックにまとめそうだったので遮る。
露骨に肩を下げて落胆し、話を続けた。
「黒金さんも私も数年やっていてかなりの底辺。低迷してます」
「はっきり言うね」
「底辺同士、手を取り合いませんか、そんなお話です。如何ですか?」
長々と語ったのは一体なんだったのか。自分語りをしたかったのか?
簡潔にまとめられた。
俺は1度冷静になり、能力をフル活用して情報を整理する。
そこで一つ、結論を出す。
「お断りします。マイナス賭けるマイナスがプラスになるのは数式の中の話。底辺同士がタッグを組んだ所で底辺です。しかも、貴女は綺麗ですからそれ目的の視聴者が多いはずです。それにガチ恋勢も⋯⋯それらを敵に回します。さらに、収益も分ける事になるので純粋な取り分が下がります。一言で言うなら、メリットが無い」
俺も彼女もダンジョン攻略や配信は金を稼ぐ手段。
金関係では揉めやすいのだ。
手を組む理由が尚更無い。
しかも、昨日今日会っただけの関係では手を取り合う信頼関係すらない。
ビジネスだけの関係だとしても⋯⋯正直不安である。
「メリット、ですか?」
「ええ」
その時、先程まで能面だった彼女の顔に微かに笑みが浮かんだ。
「メリットならありますよ。それも沢山。私にとっても、貴方にとっても。そうでなくてはこの話をそもそも出しません」
「自信ありげに言いますね。では聞かせて貰いましょうか、そのメリットを」
「ええ。もちろん」
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