次話  不気味な誕生会

 四十路の年女の私が、絶賛再就活中の頃でした。もう、二十年以上前の話になります。


 その日も私は母を連れて、今はもうないK町密着型のスーパーで、買い物をしていました。


 母は原付の免許しかなく、車を運転出来るのは、家族の中で私と父だけです。

 父はまだ、定年前で働いていました。当然ながら、母の買い物の運転係は、無職の私の義務でありました。


 確か母は、昼ご飯を餌にして、私を買い物に連れ出したような? そんな記憶が、薄らと残っています。


 そのスーパーは、二階に定食屋がありまして、わたしはそこでカレーかカツ丼を頼んでいました。


 何分、昔のことなので、何を食べたのか記憶から抜け落ちています。

 でも、あの日遭遇した出来事は、断片的ながら覚えています。


 その食堂には、小上がりの座敷席もあって、貸切での利用が可能でした。

 母と一緒にテーブル席に向かう途中、私はふと、にぎやかな声のする方に目を向けました。


「ああ、お誕生会やっているんだね」


 何気ない母の一言など、気に止めないくらい、少し異様な雰囲気を醸し出していました。


「お姉ちゃん。こっち来なっ」


 老婆に促されて真ん中の席に着いた、小学校五年生くらいの女の子でした。

 女の子の服装ですが、年齢にそぐわないような格好をさせられていたため、私はその場面に目が釘付けになってしまいました。


 だって、小学校低学年ならまだしも、その子は水色の薄手のドレスを着せられていたからです。しかも、おかっぱ風の黒髪に、真っ白なリボンをつけさせられていました。


 仮にピアノの発表会の衣装のままで、食事会を行うのであれば、もう少ししゃれたレストランを選択するはずです。


 こちらの耳に届いた、周囲の雑談から察しても、不可解に着飾った少女の誕生会を催すために、ここの座敷席を貸し切ったのだと、私は理解しました。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん。もっとこっち」


 先ほどと同じ声が、何度も少女を真ん中の席に誘います。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん……」


 少女を呼ぶ、特徴的なイントネーションの老婆の声のせいでしょうか。

 

 本当に、私は何を食べたのか、全く覚えていません。

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