第43話 魔銃士、初めてのダンジョン踏破に挑む・7

 ヴィゴさんと進みながら、他の三人を案じる。俺のせいで下の階層へ落ちる際に転移させられたらしく、ルチアの探知でも彼らの気配を同じフロアでは掴めなかった。ダンジョンマスターはどういうわけか灯りだけは絶やさず、通路内は常に明るい光に満たされている。暗がりを利用して不意打ちをかけて侵入者の数を減らすのがセオリーなのに。


「ソーどの、なにか足下が揺れておらんか?」

「ん? そういえばなんか細かく揺れてんなー」

――二人とも、地面から何か来る!


 ルチアの警告があったお陰で俺たちはその場から飛び退き、武器を構える時間があった。つい先ほどまで俺たちが立っていた場所に大きなモグラの魔物モンスターが現れ、鋭い鉤爪を振り上げたかと思ったらすぐに引っ込んでしまった。一匹だけではないらしく俺たちの足下を嫌らしく攻撃してくる。ルチアは小型犬サイズに縮むと前足や牙で攻撃を加えるも、奴らはモグラ叩きのごとく穴に引っ込んでは別の出口から攻撃する。


「厄介じゃの、ちょこまかと!」


 ヴィゴさんは手槍を穴に突っ込むも手応えはなし。ルチアも完全に遊ばれている。自由自在に土の中を泳ぎ回り、土魔法を行使して土塊つちくれを方々からぶつけてくる。これがまた痛い。中に小石が入っていてダメージが思った以上にある。思うように攻撃が通らないルチアがもどかしげに麻痺の咆哮を上げるが、穴に引っ込まれると意味がなかった。これといった決め手がないままモグラの魔物モンスターに翻弄された俺は、いい加減に堪忍袋の緒が切れた。離ればなれになった他のメンバーの動向も気になるので、一気に片を付けることにする。


「これでくたばれや!」


 俺は水魔法に合わせると、奴らのトンネル全てを水で満たし且つ土が決壊するイメージを浮かべて魔法を放った。泥となった土はトンネルを塞いでいき、モグラ型の魔物モンスターは逃げ惑うも泥がまとわりついて逃げられない。俺は怒りのあまりマナのコントロールを忘れて消費してしまい、体内の残量が三分の一まで減ったところで疲労感を覚えてしまった。


――ソー、使いすぎだよ。まだダンジョンマスターの元に辿り着いていないのに。


 ルチアの忠告で慌てて攻撃を止めるも、疲労感が半端ない。ルチアが魔力供給してくれたお陰でマナは全回復し、状態異常も解除された。と、大きく地面が揺れ巨大なモグラが泥を纏って現れた。初めて見る階層の守護者か。今回の泥責めではくたばらなかったか。


「ソーどの、少し休んでおれ。貴殿が地中を泥にしてくれたお陰で奴は地上でしか戦えんようじゃ」


 ヴィゴさんは上の階層で見つけたアダマンタイト製の斧を構えると、魔物モンスターと一気に距離を詰め豪腕を叩きつける。守護者も鋭い爪を振り回し応戦するが、がっしりとした重厚感がある体躯の割にヴィゴさんは素早く、斧と手槍を巧みに使って守護者を傷つける。


『助太刀するぞ』

「感謝します、フェンリル様」


 ルチアが前足を大きく振り上げ、顔面を深く抉るように攻撃を加えた。次いで無詠唱で閃光を放つと、もともと地中で活動するモグラ型の魔物モンスターが悲鳴をあげてのたうち回る。目が見当たらないけれど光に弱いんだな、俺も日光をイメージして魔法を放とうとしたが、ルチアに止められた。ヴィゴさんと自分に任せろ、と。


 アダマンタイト製の斧は魔物モンスターの爪とまともに打ち合っても、刃こぼれ一つしない。あんなに鋭い爪だ、普通の武器だったら容赦なく折れるだろう。さすが神獣フェンリルだけあって、ルチアの爪や牙も欠けたりせずに攻防一体で活躍している。俺は魔力供給されたとはいえマナを減らすことは出来ない。だけど鉄製のショートソードやナイフじゃ役に立たない。……ん? 神獣フェンリルの爪や牙? 持ってるじゃないか俺。ルチアの母親が残した爪と牙が。


 腰の空間魔法ポーチから防寒着用にカットした母フェンリルの毛皮と、糸切り歯に値する牙を一本取り出す。息子を頼みますと遺言を残した彼女。どれだけ無念で心残りだったろう。あんたの一部を使わせてもらうよ。立派な成体となった息子と共に戦おうじゃないか。毛皮を羽織り防具代わりにし、牙を逆手に持ちナイフ代わりにモグラの身体に突き立て大きく袈裟に斬る。痛みに大きく身を捩った守護者ガーディアンが無防備に心臓部を晒した。


「これで終わりじゃ!」


 アダマンタイト製の斧を渾身の力で振り下ろし、ヴィゴさんが守護者にトドメをさした。光の粒となって消えたあとに、薄茶色の石が残った。


「これは珍しいの。ノームの魔力が結集した魔石じゃ」

「え、あれって四大精霊のひとつ、土の精霊ノームだったのかよ?」

「おそらくダンジョンマスターによって歪められ、守護者にさせられたんじゃろう。わしらドワーフとは親和性が高いからの、ノームは。複雑じゃわい」


 ドワーフは土の精霊ノームと同種または亜種とされることも多いので、どのファンタジーでも親和性が高い。だからドワーフが鍛冶職人の一面を持つことが多いのも、ノームとの関係性からだった。


「ソーどの、これも持っていてほしい。魔物モンスターにされた土の精霊ノームの無念を晴らしたい」

「判った」


 俺は腰の空間魔法ポーチにノームの魔石を収納する。守護者が斃されたことによって奥の地面が光り、下の階層へと続く階段が現れた。正当な手続きを踏んで現れたルートだ、たぶん罠はないだろう。先頭をヴィゴさんが務め、俺たちは相変わらず地下だというの妙に明るい通路を進んでいく。

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