第20話 魔銃士、パーティーを組む

 俺たちが戻ると、エドのパーティーが全員揃っていた。心なしか元気がないな。


――聞こえたんだけど、護衛クエスト失敗で報酬が貰えなかったんだって。


 さすがフェンリルのルチア。かなり距離があっても、ブライアンが席を外していた間に交わされていた会話を聞き取っていた。可哀想だがもう少しで荷物が強奪されるとこだったんだからな。今回彼らは無報酬でただ働き。ま、こういうシビアな一面が冒険者ライフにあるから油断が出来ない。俺も前の世界で失敗すれば無報酬で、下手をすれば死を迎えるからな。間一髪間に合って良かったよ。


「話は終わったのかい、ソー」

「まぁな。ところで集まってどうしたんだ?」

「みんなと話し合って決めたんだけど、もしソーがその気ならおれたちのパーティーに加入してくれないか? 前衛と後衛を兼ね備えているソーなら、安定してクエストがクリアできそうな気がするんだ」

「その話なんだけど」


 ルチアとの意思疎通は終わっている、あとはそれを口にするだけだ。


「エドも気付いているだろうけど、俺は異世界から転移してきた人間でこの世界のことをまだ把握しきっていない。だからパーティーに加入させてくれないか? むしろこちらからお願いしたい」


 エドたちの顔に笑顔が戻る。護衛クエストを失敗したから、本来は余計な人数を増やすなんて選択肢はないはずなのに。それでも俺を加入させたいということは、デメリットよりもメリットの方が多いと話し合いで気付いたんだろうな。


「ありがとう、歓迎するよソー。早速メンバーの紹介だな、まずおれはエドワード。職業クラスは魔法戦士さ」


 次に軽装備だが身体は異様に分厚くがっちりしている、黒髪を短く刈り込んだ男が声を出す。


「俺はハミルトン。見ての通り格闘家だ」

「あたしは盗賊シーフのアガサ。よろしくね」


 細身だが出るとこは出ている、右目の下の泣きぼくろがセクシーな美少女。銀髪をショートカットにしており、年の頃は十代後半ってところか。あれ、もうひとり女性がパーティーにいたと思うんだが。その疑問を口に出すと、三人が苦笑いを浮かべる。アガサに至っては肩まですくめている始末。


「そうね、ひとり聖女候補のカミラがいたの。でも彼女はソーの回復魔法のすごさを目の当たりにして、自信をなくしたの。ここトレースの聖女候補だったけど、他の候補者に敗れて冒険者になったという経歴なんだけど」


 話によるとカミラは聖女候補に選ばれたという自負が強く、かなり高慢な性格だったらしい。それにパーティーで唯一の回復役ということも、彼女の自尊心を大いにくすぐりさらに驕慢になったとのこと。しかし山賊に襲撃された際に真っ先に狙われ、一番酷い怪我を負わされた。内臓に折れた骨が複雑に刺さり、瀕死の重傷を負っていたのは彼女だった。ふわふわとしたピンク髪のかわいらしい外見が苦痛に歪み、息がもう少しで絶えそうだった。ルチアの魔力供給を受け、一番早く完治させるようにイメージを膨らませたっけ。


「そうか、あの子はパーティーを離脱したのか」

「ソーは治癒魔法が広範囲で行えて、おまけに完治させたんだ。プライドをへし折った張本人とパーティーを組みたいなんて、彼女は思わないんだよ」


 エドの口ぶりからすると、カミラは相当メンバーを振り回していたんだろうな。自分しか回復できない、しかもトレースの都の聖女候補だったという優越感からくる自分ファースト。


「ソーは魔銃士ガンナーだから攻撃魔法も得意だろう?」

「俺は魔銃士ガンナーになる前は暗殺者アサシンだった。ある程度は肉弾戦もできるよ」

「じゃあ斥候はアガサと共に頼めるな」

「そうだな」


 俺は魔銃のお陰で攻撃・回復魔法が使える。おまけに神獣であるフェンリルと契約しているから後衛職として活躍できる。このパーティーはどちらかというと物理攻撃が得意な面子が多いな。回復役が抜けたのは痛い。


「正直、回復役はソーに頼むことが多くなると思う。おれは攻撃魔法しか使えないから」

「俺は肉弾戦専門だしな」

「あたしも魔法は専門外よ。アイテムを盗むなら得意だけど」

「回復役を引き受けるさ。どうも俺のせいで抜けてしまったらしいからな」

「じゃ、パーティー加入の儀式だ。手を出して」


 エドに促され、俺は右手を出す。甲の上に三人の手が重なり、エドが「我らは銀の翼なり」と宣言すると右手の甲が熱くなった。皆の手が離れると手の甲に小さく一対の翼を模した紋章が刻まれていた。


「パーティーメンバーの証だ。万が一ダンジョン内ではぐれてしまったときなんか、銀の翼と念じれば仲間がいる方向がだいたい判る。そんな事態にならないようにするのが、一番だけどね」


 これで俺はかなり高ランクが集うパーティー「銀の翼」のメンバーになった。エドがAクラス、ハミルトンとアガサはBクラスで、俺は表向きはCクラスの実際はSクラス。ん? 俺の短衣チュニックをルチアが咥えて引っ張る。あ、そっかごめんごめん。


「紹介するの忘れてた。俺と主従契約を結んだ神獣フェンリルの、ルチアだ。こいつも男の子だから、よろしくな」


 俺とルチアは正式にパーティーに加入し、取り敢えず宿へ行く。今日は休んで、明日になったら新しいクエストを探すらしい。さぁ、本格的に冒険者活動が始まるな。

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