第19話 魔銃士、冒険者のランクが上がる
観音開きの大きな扉を開けると、中に冒険者たちは殆どいなかった。真っ昼間だというのに酒を飲んでいるのが数人。クエストが終了したためか、安堵の表情を浮かべている。……ドアが開くたび、誰が来たのか
「フェンリル? しかも成体……初めて本物を見たわ」
女弓兵が目を丸くしてこっちをガン見している。だがルチア以上に俺の腰から生えているように見えるオッサンの生首に、みんな瞬時に顔を反らす。好奇の視線が一斉になくなったのを見計らい、俺はさっきから微動だにしない受付の男に近付く。
「いらっしゃいませ。まずはこちらのクリスタルで身分の確認をお願いします」
よく通るハイバリトン。ギルドではクリスタルに触れることがデフォなんだな。タッチすると青色に光り、本人確認が完了する。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「テリベ村からトレースの都へ続く街道で、山賊が出没した」
ここまでのことを説明すると、受付の男は得心がいったと頷き腰の生首たちを、ついでルチアの背にいる野郎どもに視線を送った。
「山賊の残党ですね?」
「ああ。この髭面が
「彼の言葉に嘘偽りはありませんよ。おれたちはその山賊に襲われ、パーティー壊滅の危機を救ってくれたんですから」
「これは『銀の翼』のエドワードさん。あなた方のパーティーが襲われたんですか?」
「彼は山賊たちを全滅しただけでなく、動けなくなったメンバー全員の怪我を完治させました。神獣フェンリルを従えているから、相当な使い手ですよ」
「そ、そうですね」
妙に視線が泳いでるな。受付を担当するくらいだから、主従契約を結んだ人間や異世界転移者なんか見慣れているはずだろうに。
「この山賊は手配書が全世界に回っていましたが、生け捕ることは出来ませんでした。今回、数を減らしたとはいえ
俺とルチアは奥の部屋へと案内される。床に複雑な魔法陣が描かれており、受付男が手をかざすと魔力が注がれたのか淡い光を放った。
「名乗っていませんでしたね、大変失礼しました。わたしは副ギルドマスターのブライアンです。受付嬢が急病で早退したので、代理で立っていました。あぁ、この魔法陣に山賊どもを放り込んでください」
「放り込む?」
「言葉通り、投げ捨てる勢いでどうぞ」
爽やかな笑顔で言い放つ、副ギルドマスターのブライアン。まずは
「転移の魔法陣で、行き先は罪人専用の牢獄です。そこで全てのスキルや装備を引っぺがされ、裁判無しの処刑を待つ日々を送ることになります」
それを聞いて、ルチアの背に括り付けられた連中は震え出す。厳重に括り付けられているのに暴れるもんだからルチアが苛立ち、俺とブライアンに結界を張った上で麻痺の咆哮をあげて大人しくさせた。
『まったく、うるさいんだよ』
おっと、黒ルチアが降臨した。ブライアンと協力して全員を魔法陣に放り込むと、彼は俺に向き直りひと言。
「プレートにはDクラスとありますが、本来はSクラスですね。あぁ、ご安心下さい。本来のランクはギルド職員にしか見えませんから。そして今回の山賊の件で、表向きのランクもDからCにアップしました。Cランク以上はダンジョン探索クエストが受けられますので、パーティーを組んで踏破に挑戦して下さい」
山賊を全滅したことと生け捕りにしたことで、ポイントが一気にたまりランクアップしたようだ。それでも本来のランクには遠い。
「報奨金は金貨三十オーラムです。全員生け捕っていたならば、三倍の額が出たのですが」
「いいよ、それだけ貰えれば充分だ」
「謙虚な方ですね。では報奨金をご用意しますので、しばらくお待ちください」
ブライアンは部屋を出ていった。待つこと十五分、重そうな小袋を手に戻ってきた。
「こちらが報奨金です。ソーさん、未完了のクエストがいくつかあるんですが、受けますか? それともどなたかとパーティーを組みますか」
「エドと組んでみたいと話していたんだ。彼とその仲間と話してみる」
「さようですか。彼らの実力ならば、異世界から来たばかりのあなたにはちょうどいいかもしれませんね。この世界に慣れる意味で」
さすが副ギルドマスターだ。こちらの事情を全て見透かしたような笑みを浮かべる。俺は金貨用の財布を出すと報奨金を入れ、空間魔法ポーチの中に戻す。いやーこれマジで便利。基本手ぶらで行動できるし、重量も全く感じない。さて、エドとその仲間に話しかけてみるか。
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