第21話 魔銃士、領主の暗殺未遂事件に巻き込まれる・1
俺とルチアでひと部屋、アガサは女性だから個室、エドとハミル――そう呼んでくれと言われた――でひと部屋と振り分け、ゆっくりと身体を休めた。個室それぞれに風呂があって助かった。湯船もそれなりに広くて、足を伸ばせるのが嬉しい。ルチアは浄化魔法で充分ということで風呂には入らないが、俺はやはり入浴はしたい。
俺の装備類に浄化魔法を掛けてくれるから、洗濯には困らない。身体が綺麗になっても衣類や鎧が汚いままだといやじゃん? ルチアは割と綺麗好きらしく、俺が嬉々として風呂に入っていくのを、好ましげな目で見送ってくれた。
『ソー、湯加減はどう?』
脳内に響くルチアの声。若干寂しそうな響きが感じられるな、意外と甘えん坊なんだよな。まぁ無理もないか、成体になる前に母親があんなことになってしまったんだ。
「もうすぐあがるから、待ってて」
『うん。あのね、このトレースの都に入ってから気になることがあるんだ』
「気になること?」
何だろう。ルチアの嗅覚や聴覚は人間には捉えられないものを拾い上げる。魔力だって人間以上だから、それらを総合的に鑑みて異変を察知したのかな。
『魔物関係じゃないんだけど、何だか濃い悪意を感じるんだ。それもある一点に向けてその悪意が塊となって流れてる感じが、どうにも気味が悪くて』
「悪意か」
魔物ではないが感じる悪意。となると、俺の暗殺者としての経験則と勘がひとつの可能性を導き出す。
「人の悪意、だろうな」
『え?』
「山賊が都市の近くにアジトを持った。これは偶然なのか? もしかしたら俺が全滅させた山賊集団は、何かの先兵だったのかも知れない」
『それって、例えば?』
「この都市を武力で以て陥落させる。市街戦だよ」
まだ推測の域を出ないけどな、と返してから俺は湯船から出る。するとルチアが風呂場の扉を鼻先で開けて、風魔法で一瞬にして全身を乾かしてくれた。おー便利。時短だ時短。清潔になった衣類を纏ってからルチアの身体に顔を埋める。このモフモフがたまんねー! このまま寝落ちてしまいそう……になる意識を必死に押しとどめ、ベッドへと腰掛ける。
「ここは辺境の都市で他国と接している。ましてや農産業が栄えているということは、ここを制圧すれば戦になったとき兵糧の確保には困らない。他国からすれば喉から手が出るほど欲しいと思うぞ、このトレースの都は」
『そうだね、ボクたちは食べなくても平気だけど、普通の生き物は食料が必要だね。じゃあ悪意の塊の向かう先って』
「おそらく――いや十中八九、領主であるケルアイユ辺境伯だろうな。まあ辺境伯も常時狙われているって自覚はあるだろうから、警護は怠っていないと思うけどね」
前の世界でも権力者をはじめ命を狙われている者は、絶えずボディガードを雇い警護している。ま、その警護の目を掻い潜って暗殺するのがプロの仕事なんだけどさ。
『ソー、冒険者になったからには依頼がなければ勝手に動けないよ』
俺の昂ぶった思考を読んだのか、ルチアが警告してくる。そっか残念。この世界でも俺の技術が何処まで通用するか試してみたかったけど、エドたちとパーティーを組んだ以上チームワークは大事だな。単独で動いてエドたちの評判がこれ以上落ちるのは、彼らのためにならない。
「判ったよルチア。パーティーのリーダーはエドだ、彼の決定に従うさ」
その答えに満足したのか、甘えるように鼻をこすりつけてルチアは床に寝そべった。俺もマナを補充しないとな。取り敢えず今夜はゆっくりと休んで、明朝からは銀の翼のメンバーとして動こう。
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