第16話 魔銃士、冒険者たちを一瞬で完治させる

 大きく息を吸い込むと同時にルチアは結界を解いた。突如現れた巨大なフェンリルに気付いた山賊どもは、今まさに商人に襲いかかろうとした手を止め、一斉にこっちを振り向く。


「な、なんだこのバケモノは!」


 むぅ、失礼だな山賊ども。俺の怒りがルチアにも伝わったのか、俺が飛び降りると同時に毛を逆立て咆哮を上げる。結界で俺と旅商隊キャラバンくるんでくれたので、咆哮による麻痺効果は免れている。


「黙れ山賊ども、俺の大事な相棒をバケモノ呼ばわりしやがって!」


 許さねぇ。山賊どもをリーダーと思しき人間以外、すべて消し炭にするイメージを脳内に描いてから魔銃のトリガーを引いた。刹那、銃口から巨大な炎が飛び出し山賊どもを包んで、生きながら火あぶりにする。聞くに堪えない汚ねぇ叫び声が辺りに響く。商人たちは荷馬車を炎から守ろうと馬の手綱を引き離れようとするが、肝心の馬たちが炎にビビって動けない。


『安心せよ旅商隊たち。その炎は山賊たちしか焼かない』


 ルチアが諭すように声をかけると、旅商人たちは馬を無理に引っ張ろうとしなくなった。商人たちや荷馬車を巻き添えにしようと炎に焼かれた山賊どもが近付くも、結界に守られている彼らに指一本触れることは叶わず。そうこうするうちに死のダンスを終えた山賊どもはひとり、またひとりと黒焦げになって倒れていく。


「く、くそ何なんだよ!」


 残ったかしららしき男が、モーニングスターを振り回しながら突っ込んできた。魔銃をしまうと素早く投擲ナイフを二本取りだし、山賊の両膝目がけて投げ打つ。それらは正確に肉を深くみ、わずかだが動きを封じることに成功した。その隙を狙って俺は距離を詰めると、相手の顎を掌底で打ち抜く。思い切り首が後ろに反り脳を揺らされたことで、山賊のかしらは脳震盪を起こしてあっけなく気絶した。


「ま、こんなもんかな。すまんがロープか何かないか?」


 商人たちに問いかければ、最初は及び腰だった商人のひとりが手荷物の中からロープを手渡してきた。さくっと気絶した山賊の頭を縛り上げて、腰の空間魔法ポーチに頭から押し込んでやる。こうしとけば逃げられることもないし、あとで街に着いたら騎士団にでも引き渡せばいい。それよりも人命救助だ。


『ボクは他に残党がいないか探ってみる』

「頼む」


 俺は呻き声を上げる護衛の冒険者たちに駆け寄った。ほとんどが息絶えているが、何人かは生死の境を彷徨っている――時間がないな。白マークを合わせ、けが人全員に治癒が行き渡るイメージを。折れた骨、傷ついた内臓、破れた血管や神経が完全に修復されるイメージも。多分、相当に魔力を持って行かれるだろうな。


「ルチア、魔力供給を頼む」

『判ったよ。無理しちゃ駄目だからね』


 今まで溜め込んできた魔力の全てを使っても、全員を完治させることは出来ない。ルチアからの魔力供給がなければ、俺の方が魔力切れで行動不可になる。ルチアの身体が仄白く光り、俺の身体に膨大な魔力が流れ込んでくる。全員を完全に治癒しても余りある魔力を注がれ、俺は魔銃から治癒魔法を放つ。


 聖光が辺りを包む。見ているだけで心が癒やされる美しい光は冒険者たちを余すことなく包み込み、傷口を塞ぎやがて痕すらも残さない。瀕死で意識が混濁していた冒険者がゆっくりと目を開き、信じられないといった表情かおで周囲を見た。


「こ、これは一体?」

「俺たちはあんなに深傷ふかでを負ったのに、治ってる?」


 みな口々に自身に起きた奇跡に疑問の声をあげ、周囲を見渡す。そのうちのひとりが俺とバッチリ目が合い、魔銃とフェンリルであるルチアを認識した。


「魔銃? ……もしや君は異世界渡りの者なのか?」


 この世界では魔銃を持つ者=異世界人という認識なんだな。というか、魔銃の存在ってメジャーなんだな。珍しい物だから見たことない人が多いと思っていたのに。その疑問をルチアにぶつけると、彼はあっけらかんと答えてくれた。


『魔銃を持った異世界人の存在は、珍しくないんだよ。世界各国で数年に一度の頻度で異世界人が現れるからね。ただ魔銃は数に限りがあるから、異世界人全員は持てない』


 大抵はルチアの親父さんと契約した人物のように宝箱の中に隠したり、国に献上して元首に認められて授与されるという形になるみたいだ。殆どの異世界人は、俺みたいにフェンリルをはじめとする神獣や妖精と契約しているから判別が付きやすいんだって。


 魔銃を所持していて神獣や妖精を連れていたら、異世界人でも珍しい部類に入るそうな。主従契約を結べて魔銃まで装備している。相当な実力者と認識されることは想像に難くない。だから冒険者たちも俺とルチアを見て、状況を一瞬で理解したんだろう。


「身体の方はどうだ? 治癒魔法は初めて使ったから、違和感があったら言ってくれ」

「いや大丈夫だ。痛みもないし、けんを切られた利き腕が動く。こんな完璧に治癒できるなんて、聖女や高位聖職者並みだな、感謝する」


 黒の鎧を纏った青髪の男が礼を述べてきた。どうやらこの青年が護衛のリーダー役らしく、彼が立ちあがると他の冒険者たちも立ちあがった。うん、みな動きが軽快で後遺症が残っている風には見えない。どうやら治癒は完璧なようだ。

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