第15話 魔銃士、山賊に遭遇する
宣言どおりテリベの村を離れた俺たちは、村と反対側の街道を進む。
――ルチア、この先にはどんな街や村があるんだ?
――このまま行けば、イニティウム王国第三の都市、トレースだよ。ケルアイユ辺境伯が領主で、農業が盛んで特に果物が豊富だよ。
―――そうなんだ。果物は好物なんだ、ルチアは?
――ボクは雑食だから果物も大体は食べられるよ。着いたら何か食べようか。
――楽しみだな。
急ぐ旅でもないし、マナを体内にため込む都合もあって徒歩で移動している。テリベの村を出発して三日、街道だからか特に魔物に遭遇することもなく風景を楽しみながら歩く。ルチアが
――ケルアイユ辺境伯って、貴族の中では左遷的な位置なのか?。
――逆だよ。国境に領土があるということは、隣国の侵攻を食い止めるために相応の実力がないといけない。特にケルアイユ辺境伯の領土は豊穣だから、接する隣国たちに狙われている。でも代々武勇を誇る家柄でもあるから、領民たちの士気も高くて冒険者もAランクがゴロゴロいるよ。
――テリベの村は辺境伯領に近いから、もしかして彼らもランクが高いのか?
――引退した三人組ですらAランクだったでしょ? 村外にいる連中も最低でもBランクで、Aランクの連中は高難度のダンジョンに潜ったり、辺境伯領で傭兵として雇われていたりしているよ。
ソーも修行を兼ねて辺境伯の傭兵団に入ってみる? と言われたが肩をすくめて拒絶の意を示す。前世界でも組織の命令に従っていた。せっかく新しい世界に来たんだ、自由に生きていきたい。それにルチアの言葉で心をくすぐられるワードがあったからな。それに挑戦したい。それこそTHE・冒険者! って感じだからな!
――俺はそんな雇われ者になるつもりはない。それに、ダンジョンというものに興味があるな。
――ソーの実力はSクラスだから、高ランクダンジョンに挑めるけど……表向きはDランクだからね。でもDランクの冒険者が挑むダンジョンは世界中にあるから、生活には困らないと思う。
――そっか。前世界ではそんなものは創作でしか存在していないから、挑んでみたいんだよな。
――楽しみだね、色んなトラップをくぐり抜けて宝物を手にしたり……ソー、ボクの背中に乗って!
ルチアの纏う空気が変わった。逆らうことを許さない気迫に俺は素直に飛び乗り、その豊かな被毛をしっかりと握った。刹那、ルチアは元の大きさに戻り猛ダッシュを始める。
――どうしたんだ?
――五キロ先の街道から少し左に逸れた
上体を起こしていると風圧で吹っ飛ばされそうなんで、被毛に埋もれるようにしてしがみつく。現場に到着してから身体を起こせば問題ないだろう。それにしても風圧がすごい! 体感時間三十秒ほどで、ルチアが減速して立ち止まった。顔を上げると血のにおいがすごい。呻き声も複数人分聞こえるし、命乞いする声も。
「さあ荷物を全部俺たちに寄越せ。そうすりゃお前の命は救ってやらんでもない」
「あくまでも考えてやる、ってことだからな」
下卑た笑い声が聞こえる。近距離なのに俺たちが山賊に気付かれていないってことは、ルチアは結界で姿を消しているらしい。荷馬車は十台ほど、護衛の冒険者たちもざっと見積もって三十人近くいるのに全て地面に転がっている。怪我が酷く、中には今すぐ治癒魔法をかけないと死んでしまう状態の者もいる。
――ソー、今から結界を解いて姿を現す。あいつらの動きを止める効果がある雄叫びを上げるから、魔銃で派手な攻撃をお願い!
――任せろ、事情を聞くために一人か二人は五体満足で生け捕りにしてやるが、その他は知らん!
俺は魔銃を左胸のホルスターから引き抜くと照準を赤マークに合わせ、燃え広がる紅蓮の炎をイメージする。前世界の漫画の台詞にあっただろう? 汚物は消毒だ! ってな。
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