第14話 魔銃士、晴れて冒険者と認められる

 俺が右手をクリスタルに触れた刹那、透明だったそれはどんどん色を変えていき最終的には濃い紫色になった。受付嬢が初めて感情を面に出し、小さく信じられない……と呟いた。ひどく驚愕しており、両手で口元を覆っている。


「失礼しました。ソー様、あなたのランクはSです。でも」


 受付嬢はすぐにポーカーフェイスに戻ると、かすかに申し訳なさそうな声音で続けてきた。


「世界中の冒険者ギルドの規定で、初めて冒険者カードを発行する際に最初はみな一律に最低ランクのFからなんです。ですが何事にも例外というのはございまして、クリスタルがSランク判定した場合は特別にDランクからのスタートになります。実力よりも低いランクからのスタートになりますが、それは規約でして」


 俺は森の中で遭遇した駆け出し四人組が、一人前の冒険者ランクはDからだと言っていたのを思い出す。なるほど、実力的には最高ランクであっても特別枠でDランクからのスタートってことか。


「構わないよ。見ての通り俺は異世界から来たし、この世界では異端扱いだ。Dランクからだろうと冒険者として登録されたならそれでいい」


 俺の言葉にようやく安堵したのか、受付嬢はカウンターの抽斗ひきだしから前世界でいうドッグタグほどの大きさの薄いプレートを出すと、まだ濃い紫色の輝きを放つクリスタルにそっと押し当てた。すると輝きはプレートに吸い込まれるようにして消えていき、プレートには俺の名前とクラスに性別、そして表向きのランクが打刻されている。細いが頑丈そうなチェーンが取り付けられ、本格的にドッグタグのようだ。


「これが冒険者カードで、全世界共通の身分証になります。万が一紛失された場合はすぐさま最寄りの冒険者ギルドに連絡をして再発行してください。ご本人の魔力とリンクしていますから、他人が成り済ますことは不可能ですが、それでも紛失にはご注意を」

「ありがとう」

「それと表向きDランクとなっていますが、クエストをこなせば当然ポイントがたまっていきます。時々ランクアップのお知らせが表示されますので、ステータス確認の方も怠らずに」


 受け取った冒険者カードを首からさげると受付嬢に礼を言って、出口に向かう。先ほどまでいた三人は休憩が終わったのか、もう姿が見えない。ルチアをうながすと素直に歩き出し、外に出ると超大型犬サイズになった。これくらいがフェンリルとして認識され畏怖される最低限の大きさのようだ。気のせいか神獣らしいオーラが滲み出ている。


――ソー、その格好じゃ目立つから隣で装備を調えよう。ホルスターと空間魔法のポーチも買って、この村を出ようか。

――そうだな、どんな格好がいいのかルチア、アドバイス頼むな。

――任せてよ。


 俺たちは隣の棟へ移り、まずは装備を調えることにする。まずは基本として丈夫な短衣チュニックと歩きやすく軽いブーツ。さすがフェンリルが守護する森が傍にある村だけあって、ちゃんとショルダータイプのホルスターもあった。なめし革の胸当てと投擲ナイフを収納するベルト、財布も金貨・銀貨・銅貨用に三つ色違いで選んでおく。そして空間ポーチを物色する。


――これってサイズはどれがいいんだ?

――見た目が小さくても中は無限空間だから、腰に付けるタイプのモノがいいかな。


 ルチアのアドバイスに従ってウエストポーチタイプの空間ポーチを選択する。さて、こんなもんかな。


「いらっしゃいませ。えー、合計で二金貨オーラムになります」


 宝箱からもらった金貨二枚を取り出し、支払う。店主の好意で衝立の向こうで全部着替え、今まで着ていた服は珍しい異世界の物という理由で、金貨五オーラムで買い取られた。何かお釣りがきたな、ラッキーだ。財布も空間ポーチの中に入れ、俺たちは今度こそ村の外に出る。


――ソー、いま思い出したんだけど巣穴の中にあの大蛇の魔石を忘れてきたね。

――何かそんな物もあったな。

――取りに戻ろう。そしてこんな小さい村じゃなく、もう少し大きい街か王都で買い取って貰おう。あれは結構な値段になると思う。


 母親の仇の魔石はそんな高価なものなのか。ルチアは両親の巣穴に最後の別れを告げたいんだな。俺も改めてルチアと共に旅立つことを報告したい。


 俺たちはまた半日かけて森を進み、魔石を拾った。もう陽が暮れたので巣穴の中でひと晩明かし、朝早く巣穴を出る。


「ルチアは俺の大切な相棒だ。心配しないでくれ、どうか安らかに」


 母フェンリルの結界は消えてしまっているが、未だに神々しい気配は残っている。俺は深く一礼すると今度こそ、冒険者としての一歩を踏み出した。

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