第9話 暗殺者、旅立ちを決意し魔銃士になる
約三ヶ月かけて、座学は終了した。ルチアはこの座学の間に成体に変化し、母親よりも大きいサイズとなっていた。体高は三メートル、体長は五メートルというビッグサイズ。だが大きくなっても極上のもふもふは変わらない! ルチアの性別はオスで、成体になったらなかなか男らしい声になってちょっとビビった。幼生の時とのギャップが……。両親の張った結界が解けても、ルチアの結界で侵入してくる魔物はなし。
そうそう、俺の身体も三ヶ月かけてこの世界にしっかりと馴染んでいき、体内にくまなくマナが充満していった。で、今更ながらそれまで食事を取らなくても平気だったことに気付いた。いや全然食欲なかったし、違和感もなかったんだよな。
『転移者はこの世界にとって異物だから、普通の人間が持つ三大欲求が消えるんだ。マナの体内循環だけで暮らせるよ』
うーん、便利なような寂しいような。性欲と睡眠欲は別にいいけど、やっぱり食事って楽しみだし活力じゃん。でもルチアも俺と契約した瞬間から食事を必要としなくなり、敵に対し隙が減ったと喜んでいたりする。そんなもんか? これから食事しなくても生きていけると言われても、二十三年間繰り返してきた習慣が無くなる違和感に耐えられそうにないな。食えるときには食っておこう。
森にルチアと共に出て、普通の動物や時には魔物を狩って食料とした。調味料はその辺に生えている香草で、中には塩や胡椒と同じ味の香草があって、助かった。回復薬の原料となる薬草類も教えてもらい、本格的にこの巣穴を出た後に換金できるようたくさん採集しておく。
『この森はフェンリルが守護する森と人間たちは呼んでいて、大して強い魔物は出ないんだ。ランクの低い冒険者や近辺の村人たちが、薬草や香草、食料を求めて採取に来るよ』
全世界共通語も、完璧に読み書きが出来るようになった。これで冒険者ギルドに所属する際に、契約書の内容が理解できるしサインも出来る。巣穴の中には、ルチアの両親が魔物を退治した際に得た金・銀・銅貨が宝箱に入っており、父親と同様に異世界人と契約した際に相手が困らないよう入れておいてくれたんだそう。無一文な俺は、ありがたく使わせて貰う。金貨が十枚、銀貨が三十枚に銅貨が五十枚。結構な大金を、隠しポケットに突っ込んでいく。
『そろそろ、外に出ても大丈夫かな。ソーもいい加減この巣穴に飽きたでしょ?』
「まぁな。でも今夜はゆっくりと寝て、明朝にここを出ようと思う」
『いよいよだね。ボクも森の外に出るのは初めてだ、ソーと一緒だから楽しみだよ』
可愛いことを言う奴め。もう頭を撫でることも困難なルチアの腹を撫でる。最高にもふもふなルチアに包まれながら、俺は巣穴で過ごす最後の夜を過ごす。ルチアの静かな寝息を聞いていると、なくなったはずの睡眠欲が湧いてきそうで……それでいて大きな安心感に満たされていて落ち着く。
「ステータス、オープン」
座学の中で学んだ通り、俺の眼前に透明な板のような物が現れクラスやスキルが表示される。この世界ではスキルを多く持つ者ほど強いし、冒険者向きだとルチアに聞いた。
名前:
年齢:二十三歳
性別:男性
スキル:主従契約(
魔弾(マナを魔力に変換し魔法を放つ。イメージが鮮明であればあるほど威力と効果が増す)
射撃術(正確な射撃ができる。同じ属性の魔法の連射も可能)
投擲術(ナイフや石など正確な投擲ができる)
格闘術(素手や武器を使っての攻撃術)
隠密術(足音や気配を消し、敵に察知されにくい。物陰に潜んだ際に見つかる確率が低くなる)
変装術(髪型やメイクで別人のようになる。声色を変えたり動物の鳴き真似も含む)
「元の世界での、暗殺者としての能力もスキルに変換されているのか」
朝が来れば俺は新しい世界を闊歩することになる。楽しみなような、怖いような。ま、どうにかなるだろう。
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