第7話 暗殺者、魔法の概念を学ぶ

 じっと俺の顔を見つめたルチアは、申し訳なさそうに耳をぺたんと倒した。可愛いな、こんちくしょう。もふもふしてーよ、ヒコーキ耳なんて反則だろオイ!


『ボクと契約したソーは、暗殺者ギルドって訳にいかないよね。成体になったらボクはもっと巨大化するし、色が目立つから……』


 しょんぼりする大型犬サイズのフェンリルが可愛い。魔銃なんていう希有な道具を偶然とはいえ手に入れたし、前の世界では組織に縛られていて不自由だったから、ここでは自由に生きたい。だから入るギルドはただひとつ。


「俺は冒険者になるつもりだ。幸い基本的な戦闘スキルは前の世界で身につけているしな。あとは魔法を教えてくれたら完璧だな」

『あ、肝心の魔法について忘れてた! ソーは異世界人だから、魔法のこと説明しなきゃ。その魔銃の扱い方も関係してくるし』


 異世界といえば魔法だろ。転生者はともかく、転移者はそのまま存在が異世界にやってくるから魔力があるのかどうかも判らない。


『転生者はこの世界の身体を持って生まれてくるから魔力を持っているけど、転移者は世界に異物が混じり込んだものだから、身体に魔力がないんだ。だから転移者は空中に漂うマナを利用して、魔銃で魔法を打ち出す。逆に言えば現地人は、魔銃を扱えないんだ。備わっている魔力が多すぎて、魔銃を壊してしまうから』


 つまり魔銃を扱える者は転移者の証なのか。ルチアの父親と契約した人間も転移者で、この魔銃を使っていたんだな。異世界で命を落とし、魔銃は形見となって俺の手元に来た。何だか感慨深い。


「しかしこの魔銃、どういう仕組みなんだ? マナってそもそも何だよ」

『マナはこの世界の魔力の源だよ。海中にも存在していて、呼吸をすることで体内に取り込まれ魔力に変換されて、蓄積されていくんだ。魔銃はマナを魔法に変えて放出する武器で、魔力がない転移者にしか扱えない武器なんだ。少ない魔力で効果を発揮するから、転移者には打って付けなんだよ』

「このシリンダーに付けられている色はなんだ?」

『四大元素に光と闇を加えた、この世界の基本的な魔法を判りやすく色づけしたものだよ。赤が炎、青が水、緑が風、茶が土だね。紫が闇で黄色が光。氷は水系統になるから、青に合わせて撃ってもらったんだ』


 さらに転移者がこの魔銃を使う際に重要なことは、魔法の効果をイメージすること。昨日の大蛇を仕留めるとき、一発で絶命するよう全身を氷付けにした。寒さに弱い爬虫類が確実に絶命するよう、無意識にマイナスの温度を想定していたんだ。だからイメージという言葉はすんなりと受け入れられたが、光と闇魔法のイメージがよく掴めない。


『光魔法は聖魔法と呼ばれるものだよ。闇魔法は上位魔族には無効だし力を増幅させてしまうけど、毒や腐食といった効果もある。うまく使えば下級魔族や、山賊退治なんかに有効だね』

「じゃあ光魔法を使えば、治癒も出来るってことか?」

『うん。聖魔法(光魔法)の使い手は数が限られているから、冒険者パーティーでは引っ張りだこだよ。でも魔力切れを起こしたら終わりだから、転移者が光魔法を内蔵する魔銃を持っていたら争奪戦だね』


 あらま、意外と俺が冒険者になったら人気者になるのか? でも、まだ魔法には種類があるようで、俺はルチアの説明に耳を傾ける。

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