第3話 暗殺者、大蛇と巨狼の戦いに巻き込まれる
大蛇と目が合った途端、冷たい汗が流れた。
俺が児童養護施設にいたのはわずかだ。二歳になった頃、俺は身寄りのない子どもを引き取り暗殺者として育て上げる組織に買い取られた。以後、徹底的に殺しの技術を叩き込まれてきた。子どもといえど教官たちは手加減などしない。恐怖に支配されながらも己を守るために技術を磨き、心はどんな状況下であれ冷静になるよう覚え込まされた。人間相手なら、今までの訓練は無駄にならない。でもこんな規格外な爬虫類に睨まれ、シャーッて威嚇音を上げられてみろ。ビビらない奴がいたらお目にかかりたい。
「ちょ、おいおい蛇野郎が!」
人間さまを舐めんじゃねえ。銃弾が効かないなら刃物はどうだ。ナイフを逆手に持ち、その太い胴体に力一杯突き立てる、筈だった。
「あらぁ?」
刃が突き立つどころか、ぬるりとした表面の粘膜で見事に刃が滑っていく。バランスを崩した俺の視界に、ぶっとい鞭のような大蛇の尾が
「ぐぶぅっ!」
もろに鳩尾に入った。鍛え上げた腹筋のお陰で内臓への損傷は免れたが、肋骨に少々ヒビが入ったようだ。幸いなことに折れていないので、痛みさえ我慢すれば戦える。しかし俺は吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。後頭部を強打しないよう留意しつつ受け身を取る。衝撃で愛銃とナイフが手から離れ、俺は無手になってしまった。何とか立ちあがろうと手をつくと、違和感を覚えた。
「宝箱? なにこのファンタジー感満載のアイテム」
暗殺者として一人前になった十代半ばの頃、依頼料で当時流行っていた携帯ゲームとソフトを買って、初のRPGに挑戦した思い出が蘇る。レトロゲームのリマスター版で、今までゲームなんかやったことがなかった俺は攻略サイトを参考にプレイした。
師匠である教官が、俺が買ってきたゲームソフトを見て
「お、懐かしいな。俺も遊んだなぁ」
と目尻を下げてたっけ。
プレイヤーが自由にシナリオを進められるフリーシナリオ、敵はシンボルエンカウント、レベルではなく技術点が加算されてキャラは強くなっていく。技を閃いたり見切ったり、陣形次第ではヌルゲーになったりと面白くてはまり込んだっけ。そのゲーム内でも当然、宝箱という物は存在し、強力な武器防具にアクセサリーやアイテムが入っており、わくわくしながら開けたものだ。
その既視感溢れる宝箱が、俺の右手に触れた。念のためにナイフを拾うと、罠が仕掛けられていないか突きながら確認する。
『その中には魔銃が入ってる。お願い、それで母さんを助けて!』
突然頭に響いた幼児の声に、俺は思わず周囲を見回す。すると巨狼の足下に隠れるようにしていた子狼と、がっつり目が合った。え、もしかして今のボイス、あの子狼? まだ幼いから男女どちらか判別できないが、すっげぇ可愛い声。
『お願い、母さんはボクがいるから本来の力を発揮できないんだ。早く宝箱を開けて、母さんを助けて!』
悲痛な声に俺はナイフで鍵を壊し、見た目よりも重い蓋を開けた。中に入っていたのは大ぶりの
『青色を
ボクという一人称は男女どっちだ? 女の子ならボクっ子なのか? うーん俺はボクっ子は苦手なんだよな、もし女の子なら後で注意してみよう。おっと、それよりも言われたとおりにしよう。本来ならトリガーを引いてシリンダーを回すが、手動で青色に合わせ大蛇の頭部目がけて発砲する。反動は全く感じられず、何の音もない。だが撃つと同時に大蛇の全身が氷付けになる。大蛇の目から生気が抜け、やがて氷が溶けると同時に大蛇は光の粒となって消えてしまった。残ったのは、こぶし大の赤い石だった。
『ありがとう、お兄ちゃん! あ、母さん!』
巨狼は力尽きたかのようにその場に倒れた。俺も銃を手にしたまま親子の元に駆け寄る。巨狼は苦しげに息を吐き、舌がだらりと伸びている。
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